童話作家 安房直子さんが遺した景色

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風鈴がうるさいと葉書が届きました。『秋の風鈴』


『秋の風鈴』

☆あらすじ☆

ある日のこと、貧乏な絵かきの「僕」の部屋にこんな葉書が届きました。

「おたくの風鈴がうるさくて夜ねむれません。
 あたし達は、もう長い間寝不足なのです。
 夏のあいだは、がまんしていました。
 でも、もうそろそろとりこんでくださったらいかがでしょう。」


毎日、良い気持ちで聞いている風鈴の音がうるさいだなんて
考えてもみないことでした。
あの音が気になって眠れずにいる人がいるなんて。

絵かきは古いアパートの一階に住んでいました。
差出人の名前が無い葉書を見ながら、
隣近所の人たちを思い浮かべましたが誰なのか分かりません。

この風鈴は大切な思い出の品でした。
夏になる前、過ごした山村で出会った少女がくれたものなのです。
軒下にかけておくとそれだけで仕事に集中することができました。
そして、良い絵がかけるようになった気もしているのです。
それなのに、この葉書だけでしまうわけにはいかないと、
なかば意地になってそのままにしていました。

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それから十日ほどして、大量の葉書の束が届きました。
葉書の重みで郵便箱が床に転がり落ちてしまったほどです。
その全部が風鈴に対する抗議文でした。
葉書の字はどれも似たような筆跡で、
植物の葉を思い出させる草のつるの様なペン字です。

これほどまでに風鈴に迷惑している人がいるなら…、
絵かきは思い出の風鈴を軒下からはずしました。

それからは、何事もなく日々は過ぎていきました。
ただ絵かきだけは、水の底に沈んでいるような虚しさを感じていました。

そして、十月のある秋晴れの朝。
雨戸を開けた絵かきは、何もかもがすっかり分かったのでした。


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風鈴は日本の夏の風物詩。
一軒家の実家にいた頃は風鈴の涼やかな音色が心地よくて好きでした。
それに隣近所から風に乗ってかすかに聞こえてくる風鈴の音も風情がありました。
あの頃は風鈴の音が邪魔になるなんて考えたことなかったと思います。

でも、家を出てアパートで一人暮らしを始めた時です。
お隣さんがベランダに風鈴を下げていたのです。
最初、かすかに聞こえる音を懐かしく楽しんでいたのですが、
一日中少し強めの風が吹き続けていたとき、
こんなにも風鈴の音に悩まされるのかと思った時がありました。

窓を閉めていても隣のベランダの風鈴の音ははっきり聞こえます。
ワンルームなので逃げ場がないところで眠るしかなく、寝不足になりました。
そのうちに、自分でもうるさいと思ったんでしょうか、
お隣の風鈴の音は聞こえなくなっていました。


最近、涼しくなってきました。
もう、夏もおわりですね。




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[ 2015/09/01 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)
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Author:すきっぷ
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