童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2020年05月

テーブルが森の一本の木だったとき『白樺のテーブル』


白樺のテーブル


☆あらすじ☆

ぼくの部屋に、白樺で出来た小さなテーブルがあります。
白くて細い枝を組み合わせて作った可愛らしいテーブルです。

友人がぼくの引越し祝いにと、民芸品の店で見つけて贈ってくれたものです。

「こんなコンクリートの壁に囲まれて暮らすんだから、
せめてテーブルくらい素朴なのを使って、森に行ったつもりになるといいよ。」
そう言って、これを置いていったのでした。

はじめこそ、仕事の合間に一服したり、コーヒーを飲んだりする時に
使っていたのですが、忙しくなるとテーブルを使うのが面倒になり、
いつしか、部屋の隅に追いやられ、物置台になっていきました。

ある日のこと、部屋に妙なお客がやってきました。
ひょろりとした若いで、緑色の服はびしょ濡れでした。

「おたくに木の枝でこしらえた白いかわいいテーブルがないでしょうか」

「ああ、あれのこと?」ぼくはホコリが積もった物置台を指さしました。



sisisisisisisisis




自分が一番大事にしていた木が切り倒されて、テーブルになって、
そのテーブルが重い重いと泣いている夢を見るという不思議な

まだ、テーブルが森の中の一本の木だったときの幸せな思い出を
は知っているのです。
ある日突然、森の木々が切り倒されて、何もない空き地になってしまったことも。


物語に漂う、深い森の中の、静かで淋しい空気感や、森のの哀しさが
味戸ケイコさんの絵ですんなりと引き込まれていきました。







関連記事
[ 2020/05/08 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

木漏れ陽編みのレース『丘の上の小さな家』


丘の上の小さな家


☆あらすじ☆

丘の上に赤いえんとつのついた小さな家がありました。
その家には、お母さんとかわいい少女「かなちゃん」が住んでいました。

かなちゃんはいつも、ベランダの椅子に座ってレースを編んでいました。
細い銀の針で、真っ白い糸をすくい取りながら、
いつか自分が花嫁さんになる日のためのベールを編んでいるのです。

かなちゃんが十三歳になったある日のこと、
ベランダの柱にいる大きなクモに声をかけられました。

「あなたのレースと、ぼくのレースと、どちらが素敵でしょう。」

そこには見事なクモの巣が出来ていました。
クモのレースは美しい銀色で細かく編まれていて、
所々に昨夜の雨のしずくがビーズをはめたみたいに虹色に光っています。

「どうやって編むの?」

憧れでいっぱいの目でかなちゃんが尋ねると、
クモは「レース学院へおいでなさい」と言うのでした。

レース学院に行ったかなちゃんは難しい編み方をびっくりするほどの早さで覚え、
卒業証書と、レースの布と針、ビーズを持って家路につきました。

かなちゃんは「ほんの数時間」のつもりでした。
素敵なクモレース編みを覚えたくてちょっとのぞくだけのつもりでした。

それなのに、家に帰ってみると、帰りを待っていたのは一匹のだけでした。



lllllrrrrssss




物語はじめは、絵に書いたような家と優雅にレース編みをする少女
優しいお母さんの日常が描かれています。
そして、クモに声をかけられてから少女の時間が不思議な世界へと
吸い込まれていきます。
ほんのちょっとだけのつもりで好きなことをして家に戻ってくると、
現実の世界は一変していました。

と、普通ならここで終わりそうなお話なのですが、
の手助けもあり、身につけたレース編みが生計を支えることになります。
それは森の中の木漏れ陽のようにきらめいて、はかなげな不思議なレースです。

レース編みをしているときは、ただ一心に、編むことだけに集中していられます。
悲しい気持ちも、その時だけは忘れられるのです。

かなちゃんが前向きになれたのは、帰りを待っていたのおかげかもしれません。
この、叱咤激励が上手で話し相手のみならず、電話の番や料理までしてくれる有能ななのです。

人生を変えてしまった趣味が、生きる支えになることもあるのかもしれません。
過ぎたことを考えて悲しんでいても仕方がないのです。

前向きになれたり、時々悲しみが押し寄せてきたり。
それでも、心が喜ぶことを見つけて、生きていかなくてはいけないんだなと気づかせてくれるお話です。








関連記事
[ 2020/05/07 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

不思議な砂場と海の猫『ふしぎなシャベル』


ふしぎなシャベル


☆あらすじ☆

ベンチで編み物をしていたおばあさんは公園の砂場で
置き忘れられているシャベルを見つけました。

銀色で柄には波の模様がついています。

「まあ、こんな綺麗なシャベルは見たことがないわ。
生きのいいお魚みたいじゃないの。」

シャベルを拾い上げて、砂場の砂をすくってみました。
すくった砂はさらさらととてもいい感じにシャベルからこぼれます。

おばあさんは嬉しくなって、せっせと穴を掘り始めました。
夢中でどんどん深く掘っていくと砂場の砂はだんだんしっとりと濡れてきて、
その濡れた砂には白い貝がらが混じっています。
そして、掘った穴からこぽこぽと水が湧いてきました。

湧き出た水は砂場に溢れ、気がつくとおばあさんは海にいたのです。

公園のベンチもぶらんこも、ポプラの木もありません。
見渡す限りの砂浜と青い海。
おばあさんは波打ち際の砂をせっせと掘っていたのです。



nenenekkkkkk



海でおばあさんは一匹のと出会います。
麦わら帽子をかぶったそのは、なんと魚をとる網を編んでいるのです。

それでおばあさんに「あんたも手伝ってくださいよ」なんて言うのです。

これ、おばあさんが編み物出来ること知っていて言ってるんでしょうね。
それとも、編むのを手伝わせるためにわざとおばあさんを連れてきたのかも。

読んでいて「私には無理だわ」って声に出してしまいました。
ちぐはぐな網目を見て呆れるが想像できます。


潮風が気持ちいい海、そして、とれたての生きのいい魚。

柄に波の模様がついた銀色のシャベルが連れて行ってくれた
不思議な海辺のの町。

おばあさんとのやりとりが面白くて、楽しく読み終えたお話でした。







関連記事
[ 2020/05/06 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

たったひとつの嫁入り道具『木の葉の魚』


木の葉の魚


☆あらすじ☆

アイは貧しい漁師のでした。
財産は何一つ無く、借り物の小舟が一そう、借り物の網が一枚あるだけ。
そして子供が十人もいるのに、父親は病気ばかりしているといった具合です。

一番上ののアイがお嫁にやらなくてはならない年頃になったとき、
遠い村から時々やって来るばあさんが山番をしている息子の嫁に
アイを欲しいと言って来たのです。

アイが村を離れる前の晩、親は古いを一つ出してきてこう言いました。

「これがお前のたったひとつの嫁入り道具だよ。
汚いだけれど、これひとつがお前を幸せにするからね」

このに山の木の葉を入れて、蓋をしてからちょっと揺するだけで
とびきり美味しい焼きが出来る不思議ななのです。

それは親の祈りがこもっているでした。
アイが幸せになるように百日、海の神様にお願いしてもらったものなのです。



sasassss




親がアイにを渡したとき、やたらにこの鍋を使わないよう忠告をしました。

使うのは嫁入りした日と、本当に大事な時だけ。

木の葉が焼きに変わるとき、海のが同じ数だけ死んでくれるという言葉に、
ドキリとしました。

普段、や肉を食べるときそんな事を考えるでしょうか。
生命を頂いている…言われてみれば、それはそうなのですが、
それを考えながら食卓に上がったや肉を見たら、
なんだか箸をつけられなさそうです。

作中に”海の魚は山の木の葉と同じ”という言葉があります。
それは取っても取っても無くならないもの。
限りある生命として見ていない証拠です。

こんなふうに突きつけられると、ずいぶん私はいろんなものに目を背けて
生きているんだなと思わされます。
悪気が無くても、無意識のうちに感謝する気持ちを忘れているのです。

最後の一行。
”アイの親のやさしい声が、おいで、おいでと呼んでいます。
もうすぐ、もうすぐなのです”

私には、なんだか背筋が寒くなる一行でした。







関連記事
[ 2020/05/04 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



良かったらポチッと押してください↓

ブログランキング・にほんブログ村へ

タグ