童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2020年04月

おじいさんと少女の安らぎの場所『花の家』


花の家


☆あらすじ☆

ある大きな町の真ん中に、大きなお屋敷がありました。
お屋敷の周りには、一巡りするのに十五分もかかるほどの長い塀、
塀の中には木立ちがうっそうと生い茂っていました。

厳しい鉄の扉をくぐり、どこまでも続く白い飛び石の突き当りに、
やっと家の灯りが見えるのです。
その家には、もうすぐ百歳に手が届きそうなおじいさんと、
やっと十六歳になったばかりのお手伝いの少女が住んでいました。

あんまり長生きしたせいでおじいさんの家族は先に亡くなってしまい、
身寄りはこの世に一人もいないというのがおじいさんの口癖でした。

少女は大変な働き者でおじいさんの世話はもちろん、
広い家の掃除から庭の手入れまで一人でしました。

庭にはたくさんの木とがありました。
ある日のこと、おじいさんはこんな事を言いました。

「私はこの庭に黄金をどっさり埋めておいたよ。
…私が死んだらそれをみんな、あんたにあげよう」



sususuiiiii




裕福でも…裕福だからこそ、人の嫌な部分を色々見てきたであろうおじいさんと、
身寄りがなく孤独に耐えてきたことが垣間見える少女

二人の楽しみは、縁側に座ってたちや庭にやってくる蝶を眺めること。
時間が止まって、どこか例えようもなく美しい別の世界にこもっているような
そんな気分になるのです。

穏やかな日々でしたが、二人に別れのときがやってきました。
おじいさんが残してくれたもの、それはお金に代えがたいものでした。

少女は黄金を見つけたとき、喜びでいっぱいになりました。
懐かしい両親にやっと出会えたような思いに満たされました。

ずっと一緒に、庭の木やを大切にしてきたからこそ、
たった一人、生きていかなくてはならない少女に必要なものが、
おじいさんには分かっていたのでしょう。







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[ 2020/04/30 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

ひみつ ひみつ 誰にも言えない『うさぎ屋のひみつ』


うさぎ屋のひみつ


☆あらすじ☆

キャベツ畑の隣の小さい家に住んでいる若い奥さん
可愛らしくて気立てが良いのですが、大変な怠け者なのです。

家のことすべてが面倒で、朝旦那さんが家を出てしまうと、
日がな一日、窓のそばで椅子に腰掛けてレースを編んだり、
本を読んだり、一面のキャベツ畑をぼんやり眺めていたりするのです。

そして、夕方になるとため息を付いて
「あああ、今夜のおかずは何にしよう…」とつぶやくのです。

ある夕方のこと、窓のそばでやっぱりため息をついていると、
外でいきなり変な声がしました。

奥さん、今夜の夕食、お届けしますよ。」

外を見ると、そこには白いデニムのエプロンをかけたうさぎが立っていました。
そして、”夕食宅配サービス うさぎ屋”と書かれた名刺を差し出したのです。



rourouuuu




うさぎ屋のメニューには見ているだけでヨダレが出そうなほど
美味しそうな料理が並んでいました。

買い物も行かず、調理もせず、ただ待っているだけで一流の料理
食べられるのですから怠け者の奥さんには願ってもない話です。

でもね…、最近ふと思うのです。
家事や仕事で忙しい人や、なんにもやりたくないっていう怠け者だけが
夕食作るのしんどくて、うさぎ屋を利用するのでしょうか?

きっと毎日毎日、来る日も来る日も食事を作り続けている人は
時々、作るのが嫌になって、たまには誰かに作ってもらいたいよって
思うこともあるのではないでしょうか。

うさぎ屋の会費は月初めにアクセサリーを一つと交換で
ひと月の間、美味しい夕食が運ばれてくるのです。
これだったら、ちょっと試しに一ヶ月お願いしたくなります。

それにしても、欲というのは際限無いなとつくづく思いました。

そして、なんだかんだあっても、みんなたくましく生きているんだなと、
思わず笑ってしまったラストでした。


ccccchhho








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[ 2020/04/29 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

片目の黒猫と三日月村の秘密『三日月村の黒猫』


三日月村の黒猫


☆あらすじ☆

山本洋服店の息子、さちおが初めてその猫に会ったのはある夏の夕暮れ時、
西の空に細い三日月がかかり始めた時刻でした。

さちおの家はたくさんの借金を抱えて、今日倒産したのです。
家は表通りの大きな仕立て屋でした。
三代も続いた老舗を三代目のおさんが潰してしまったのです。

今朝、店を立て直すお金を工面するためにしばらく帰れないと言い残して
さんは青い顔で、ふらりと出掛けていきました。

それから、長いこと店の前にうずくまっていたさちおに
優しく声をかける者がいました。

「あなたを助けに来ましたよ。」

その声の主は、大きな黒猫でした。
片方だけ金色の目がきらりと光る、片目の黒猫が一匹、
さちおの横にのっそりと立っていたのです。

それは亡くなった方の三日月村に住むおばあさんから頼まれてやってきた
召使いの黒猫でした。

黒猫はつかつかと店の中に入っていきました.
そして、あとを追うさちおにこう言ったのです。

「さあ、しばらくの間、私と一緒に暮らしましょう。
山本洋服店を一緒にやっていきましょう。」


mimikkkkkkk




さちおと黒猫が出会った場面は不気味なはずなのに、
三日月がのぼる夜だとなんだか神秘的です。

ボタンを手に入れるために三日月村に行く道のりや
りすたちがボタンを作る場面は想像するのが楽しかったです。

その反面、三日月村の正体やおばあさんやおさんの想い、
「おさんでもあるし、おばあさんでもあるんだよ。
私の中にお前のおさんがいるんだよ。」
というおばあさんの言葉に考えさせられたりもしました。

場面が目まぐるしく変わる幻想的なお話なのですが、
司修さんの絵が加わると、アドベンチャー的な要素も感じられました。

読むたびに印象が変わる、何度も読み返してきた作品です。







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[ 2020/04/26 00:00 ] お話「ま行」 | TB(-) | CM(0)

カエルの発電所『秘密の発電所』


秘密の発電所


☆あらすじ☆

この間、急ぎの仕立物を届けた帰りでのこと、
日が暮れた峠の道で帰り道が分からなくなりました。

すると、いきなりあたりの百合が光りだしたのです。
はじめはついたり消えたりしながら、いつしか白く眩しくなりました。
まるで、お祭りの晩みたいです。

これはきっと、きつねのいたずらに違いないと思いました。
気味が悪いので、前を向いてさっさ、さっさと歩いていきました。

「もしもし、おばさん」

草の中から壊れたラッパがいきなり鳴るような感じで誰かに呼ばれたので、
飛び上がるほど驚いて、すっかり気味が悪くなりました。

私は口をぎゅっと結んで知らんふりして歩いていきました。

「おばさん、ちょっと待ってください。」

私が駆け出そうとしますと、その声ははっきりとこう言いました。

「せっかく電気をつけて道を照らしてあげたのに、
こっちの話も聞かないで、あんたは薄情者ですねえ。」

そこまで言われて知らんふりも出来ません。
私が足を止めると、そこに飛び出してきたのは一匹の大きなカエルでした。



ririyuyu




カエルが自分で作った自慢の発電装置を説明している場面が
自信たっぷりで面白いのです。
こんな立派な装置を作ったら自慢げに言いたくなる気持ちも分かります。

百合の花に灯りをともすためにマヤカシではなくて
水車を作って水力発電で灯りをともしている。

安房さんの作品に出てくる人間以外の生き物の多くは
人間以上に堅実でコツコツと健気に生活しているような気がします。

だから変に人間を嫌うこともなく、対等な言葉遣いと意見を持って
人間に歩み寄っているように思います。





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[ 2020/04/25 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

おはじき三つと、あなたの心『星のおはじき』


星のおはじき


☆あらすじ☆

あの朝、あやちゃんが学校に持ってきたたくさんのおはじきを机の上に出すと、
女の子たちが集まってきて、おはじきに触ったり手のひらに乗せたりしていました。

私も、みんなの真似をしておはじきに触ろうとすると、
あやちゃんはいきなり、「さわらないで!」と言いました。
そして、顔をしかめて、とても嫌そうに、
「あなたが触ると、汚れるわ」と言いました。

私は心の中が、すうっと青くなるような気がしました。
指先が、凍ってゆくような気がしました。

その次の国語の時間は、先生の声が全然耳に入りませんでした。
給食も、美味しくありませんでした。

昼休みに図書室から教室へ戻ると誰もいませんでした。
私も校庭へ出ようと思ったとき、あやちゃんの机の上に置き忘れられた
赤い袋を見つけたのです。


jikijikiii




家の窓から大きなの木が見える川のほとりの古い家に
おばあちゃんと二人で暮らしている女の子
目が悪いおばあちゃんは、女の子が幼いとき身だしなみを
きちんとしてくれることが出来ませんでした。
服が汚れていたり、髪が乱れていたことで悪口を言われるようになりました。

今では自分の身の回りのことはきちんと出来るようになりましたが、
それでもまだ友達は汚い汚いと言っているのです。

悪口には負けない、いつも明るく生きていたいと思う女の子ですが、
それはずいぶん難しいことだとも思うのです。

文中に何度か、「難しい」という言葉が出てきます。
「出来ない」というよりも「難しい」ということで、女の子の辛さや葛藤が
強く現れているように感じました。

「幸せな人は他人に意地悪をしない」なんてことを聞いたことがありますが、
そのとおりだと思う反面、自分はどうだろうかと思って苦しくなるときがあります。

自分より劣っている人や貧しい人を見て安心する気持ちが少なからずあるからです。

なんと説明したらいいのか、うまく言葉にできないのですが、
私にとってとても心に突き刺さる作品です。

yyyyyyyyy







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[ 2020/04/24 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

歯医者さんへのお礼です『ねずみのつくったあさごはん』


ねずみのつくったあさごはん


☆あらすじ☆

小さな町に小さな歯医者さんがありました。
若くて腕の良い歯医者さんがたった一人で働いていました。

ある日曜日、小さな患者さんが来ました。

「せんせい、お願いします。」

それは一匹のねずみでした。
玄関に飛び込むと、さっさと診療室の方へ歩き出しました。

今日は日曜日でお休みです。
そんなことはお構いなしに、ねずみはさっさと診療室の椅子によじ登って
ぱくっと口を開けたのです。

それを見ると歯医者さんはいつもの癖で思わず、
「虫歯ですか。」
と聞いてしまいました。


assssssa



休診日にいきなり来て、虫歯を看てくださいなんて、随分図々しいと思ったのですが
ねずみには虫歯をすぐに治してもらいたい理由があったようです。

そのお礼に、歯医者さんにこしらえた朝ごはん
独り身の歯医者さんにはピッタリのお礼だったと思います。

かまどで炊いたご飯にお味噌汁、厚焼き卵に煮付け、胡麻和えなど。

「素晴らしい朝ごはんだ」と嬉しくてたまらない歯医者さん。

わたしも、ねずみたちが朝ごはんを作る様子を読んでいたら
歯医者さんが羨ましくなってしまいました。





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[ 2020/04/23 00:00 ] お話「な行」 | TB(-) | CM(0)

せんせい、早く「ひみつ」を取り出して下さい!『鳥』




☆あらすじ☆

夏の夕方、腕が良いと評判ののお医者さんの診療所に
一人の少女がかけこんで来ました。

聞いてはいけなかった「ひみつ」を
日が沈むまでに大急ぎでとって欲しいというのです。

その秘密とは少女が好きになった少年は
実は魔法をかけた赤い海藻の実を食べて人間になったで、
その秘密を誰かが知ってしまったら
日が沈むと少年はに戻ってしまうのです。

少年に実を食べさせた魔法使いは少女に言いました。
「あんたが話を忘れられるか、腕のいいのお医者
ひみつを取ってもらえたら話は別だけどね」と。

だから少女にコトンッと落ちてしまった「ひみつ」を
取り出してもらおうと慌ててやってきたのです

少女の話を聞いての中を覗くと、確かに何か光るものが見えたのです。
それは白い一輪の花のようでもありました。


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少女と少年の悲恋と思いきや、最後に素敵な秘密が少女に用意されていました。
私は安房さんのこういうさりげない優しさが好きです。

私が一番惹かれたのは「のお医者さん」でした。
「秘密を取ってください」なんていう突拍子もない少女の話。
バカにせず、真剣に向き合ってくれたから、
少女のの中の秘密にも気づいてあげられたのだと思います。

そして、少女が去ったあとの思いがけない素敵な真実。
それを少女に知らせるためにお医者さんは外へ飛び出していきます。

「教えてやらなきゃいけない!」
そうさけぶと、お医者さんはそとへとびだしました。
夕暮れの道を、いちもくさんに走りました。
少女の耳の中に、もうひとつの、すてきなひみつをいれてあげるために
一心に、追いかけていきました。


私は、この最後の追いかけていくくだりが一番好きです。
私だったらたった一度きり会った人のために
こんなふうに真剣に向き合えるだろうかと思うと、
医者さんの優しさが溢れているような気がして
いつもこの場面で泣いてしまいます。




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[ 2020/04/20 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

花吹雪の午後、お出掛けください。『花びらづくし』


『山の童話 風のローラースケート』より
花びらづくし


☆あらすじ☆

あれは、去年の四月…、ちょうどがちらほら咲き始めた頃に
さくら屋からの招待状が来ました。

招待状は、薄桃色の和紙のはがきで、文字は墨でこう書かれていました。

「さくら屋にご招待します。花ふぶきの午後、おでかけください。
お金は、百円お持ちください。ぜんぶ、五円玉で、お願いいたします」

私は嬉しくて嬉しくて、そのはがきを抱いてしまいました。

それからというもの、何をしていても上の空、茶店の仕事も失敗続きで、
もう仕事になりませんでした。

そして、とうとう花吹雪の頃になりました。


sssffff



自粛要請の今年のお花見。
それでも、は今年も変わらず、綺麗な花を魅せてくれています。

思えば、私のお花見はいつも運転しながら眺めるばかりなので、
今年も例年どおりの「車中からの」を楽しみました。

今年はが咲いている期間がいつもより長く感じました。
開花し始めて満開になり、あっという間に散ってしまうのかと思いきや
先週の季節外れの雪にも耐えて、徐々に散り始めているという感じがします。

昨日は暖かくて爽やかな風が吹いていました。
車の窓を開けて運転していたら、並木でみごとな吹雪に遭遇。
花ふぶきの中に車が吸い込まれそうな感覚になりました。

そして、車の中にも桜の花びらが舞い込んできました。
花びらを手にとって眺めていると、なんだかやっぱり今年は特別な桜のような、
今年も桜が見られて良かったな…なんて思ってしまいます。

頑張って枝にしがみついて魅せてくれていた桜、もう葉桜の季節です。






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[ 2020/04/05 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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