童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2019年05月

祖父が愛したカーネーション『カーネーションの声』


『カーネーションの声』


☆あらすじ☆

亡くなった祖父が残してしていった、庭の一画にある十坪ほどの温室。

その中にはさまざまな花や観葉植物の鉢植えがぎっしりと育っていましたが、
祖父が亡くなってからは植物の世話をする人が誰もいなく、しおれていきました。

そして、誰が言い出したか温室を取り壊してアパートを建てることになりました。

温室にあった鉢植えや球根は欲しいものは貰ったり、隣近所に分けました。
しかし、丈ばかり高くて花がとても小さい貧弱なカーネーションは
誰の手に渡ることもなく根こそぎにされて庭の隅に捨てられました。

そして、その跡地には南向きの独身用の小さな8部屋のアパートが建ちました。

アパートに入ったのは全員男性でした。

ある日のこと、部屋代を払いに来た人が昼間部屋にいると不思議な声がすると
言うのです。


kkkkkkk




おじいさんが丹精込めて育てた花たち。
中でも痩せっぽちで貧弱なカーネーションへの思い入れは深かったのでしょう。

カーネーションは母の日に贈る花として有名で花言葉も「母への愛」だそうですが、
西洋の花言葉には、「あなたに会いたくてたまらない」というのもあるようです。
なんだかこの花言葉、おじいさんとカーネーションたちの想いのようにも思えて
勝手に意味を重ね合わせてしまいました。

おじいさんが愛情込めて育て、その思いに応えて小さいながらも懸命に咲いていた
花の末路。

淋しさや切なさがこみ上げる、健気に咲いた花の物語です。






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踊りが上手になりたいお嬢さんへ『うさぎのくれたバレエシューズ』


『うさぎのくれたバレエシューズ』


☆あらすじ☆

その女の子はバレエ教室に通い始めて5年も経つというのに
踊りが上手になりませんでした。

くるくると鮮やかに回れないし、先生の言うとおりに手も動きません。

それでも、音楽が鳴れば踊りたくてたまらなくなるのです。

女の子の願いはたったひとつだけでした。

「どうか、踊りが上手になりますように」


ある朝のこと、不思議な小包が届きました。
それは一足のバレエシューズでした。
そして、一緒に入っていたカードにはこんなことが書かれてありました。

「踊りが上手になりたいお嬢さんへ 山の靴屋」


barerere




好きなのに、それが上達しないもどかしさや辛さ。

自分なりに頑張っているのに思ったように出来なくて、
他の人達がどんどん先に行ってしまう不安で押しつぶされそうになる。

願うだけでは叶わないと分かっていながらも、月や星、遠い山にまで
お願いをしてしまう気持ち。

これまでに何かに夢中になって、それでもうまく行かなかった経験がある人には
この少女の気持ちを自分に重ねてしまうのではないでしょうか。

物語のように、笑顔で終われなかった結果であったとしても、
夢中になれることが見つかって、もっと上を目指して努力する気持ちは
失くしたくないと思いました。

なにかに夢中になっているときって、私はただひたすらに楽しいですから。





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[ 2019/05/19 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

こふきちゃんと母ちゃんとコロッケと『コロッケが五十二』


『コロッケが五十二』


☆あらすじ☆

町の肉屋でもう何十年も使われている大きな大きなおなべがあります。
ぶ厚くて、黒くて重くて、叩くといい音のするおなべです。
毎日、長いかねのお箸と一緒に美味しいおかずをこしらえています。

しかも、このおなべで作ったコロッケはまるで生きているように
歌でも歌いながら今にもコロコロ転がりそうに見えるのです。


この肉屋に小さい女の子がいました。
ふっくりと色白で、まるで粉ふきいもみたいな子なので
みんなは「こふきちゃん」と呼んでいました。

幼い頃からお母さんを真似ては、売り物にならないコロッケを作っていたので、
だんだんと”コロッケぐらい一人作れる”と思うようになりました。

それをお母さんに言ってみましたがお店が忙しいお母さんは
こふきちゃんの相手などしてくれません。
腹を立てたこふきちゃんがまな板の上のコロッケを払い落とすと
おかみさんはとてもこわい顔をして叱りつけました。

びっくりしたこふきちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣き出しました。
床に寝転んで、手足をバタつかせ泣き続けました。

けれど、そんなことをしても誰もかまってはくれませんでした。

korokoro 



ずっと小さい頃から店先で母ちゃんの真似事をしていたこふきちゃんは
いつしか、コロッケなんて自分一人でも出来るような気になってきました。
「母ちゃんのお手伝い、ちゃんと出来るよ」って言いたかったのかもしれません。

なのに、忙しい母ちゃんは話をまともに聞いてくれません。
だから、怒ってコロッケを払い落としてしまったのでしょう。

怖い顔で叱りつけた母ちゃんにビックリして泣いちゃって、
床に寝転んで鼻と涙でぐしょぐしょになっても誰も構ってはくれなくて…。

その情景とこふきちゃんの気持ちが分かりすぎるほどに分かって
笑ってしまいました。

こふきちゃんが騒いでも動じない母ちゃんと、頑固でめげないこふきちゃん。
きっと似た者同士なのかもしれません。


お話の終盤、母ちゃんが文字通り「体を張って」こふきちゃんを助けたあと、
家へ帰る二人の会話がとても良いな~って思いました。

母ちゃんの「なにいってるの」っていう言葉が優しく聞こえるようでした。




今日は母の日♥
kaachan 






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[ 2019/05/12 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)

おばあさんの針箱と不思議な縫い針『小さい金の針』


『小さい金の針』


☆あらすじ☆

おばあさんの針箱は古いバスケットです。
ずっと昔に、お嫁に来るときに持ってきたものです。

バスケットには、小さな赤い針刺しとハサミと糸巻き、
ボタンを入れた小箱が入っています。
針刺しには大きい針と小さい針がそれぞれ三本刺さっていて、
おばあさんは針仕事が終わると必ず針の数を数えました。

ある日のこと、針刺しに見たことのない針が一本刺さっていました。
お日さまの光だろうかと思うほどの金色の小さな針です。
針の数が増えるなんて、これまで一度もありませんでした。

ある晩のこと、真っ暗闇の部屋の隅っこがなんだか不思議な感じに明るいことに
気づきました。
それは、針箱のバスケットの小さな割れ目からこぼれている青い光でした。

「まあ、針箱の中に電気がついてる」

急に楽しくなったおばあさんは、そっと蓋を開けてみました。
すると、小さい青いランプが灯っていて、その光に照らされて
とても小さな白いねずみが針仕事をしていたのです。

harihari 



お裁縫をしているおばあさんとねずみの様子をみていると
母のことを思い出します。

母もよく縫い物をしていて、それを見ているのが好きでした。

布を裁断して、手縫いしたり、ミシンを掛けたりして
形作られていくのを見るのは本当に楽しかったです。

手際よく裁断した布をスイスイ縫っている様子は簡単そうに見えて、
私にも出来るんじゃないかと思っていたのですが、それがさっぱり。

やっぱりセンスなんでしょうか、手先の器用な人って憧れます。






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[ 2019/05/11 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

月夜の不思議な拾いもの『つきよに』


『つきよに』


☆あらすじ☆

月夜に、ねずみの子供が不思議なものを拾いました。

白くて、四角くて、いい匂いがします。

ねずみの子供は触ってみました。
ちょっと舐めてみました。
ちょっとかじってみました。

そして、それを抱えて家に帰りました。

tutu 



今日は新月なのだそうですが、あえて月夜のお話。

とても短いお話です。
ねずみの子供が不思議なものを拾って家に帰ると、
お父さんもお母さんもとても喜びました。
そして、三匹のねずみはとても幸せな気持ちになって、
うっとりと窓の月を眺めました。

幸せな気持ちになれる出来事って、
どこに転がっているか分からないものです。

それに気づける感性をもっと大切にして、
気持ちを豊かにしていきたいと思えるお話です。

sooo 






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[ 2019/05/06 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

青い夢の海に溺れてしまった娘『夢の果て』


『夢の果て』


☆あらすじ☆

あるところに、とても美しい目をした娘がいました。

「あんたは、いい目をしてるねえ。」
大人は必ずそう言いました。

自分の目は誰が見ても美しいのだとはっきり知るようになった娘は、
高慢になっていきました。
そして、他の人が頑張って手に入れる幸せも、私がにっこり笑えば
簡単に転がり込んでくると考えるようになっていきました。

ある日のこと、娘は電車の中でこれまで見たことないほどの
素敵な目の人に出会いました。

向かい合った娘は、ながいこと女の人の青いまぶたに見とれていました。

すると、その女の人はにっこり笑って優しく言ったのです。
「お嬢さん、いかがでしょう。ドリーム化粧品のアイシャドウ。
今買ってもう少し大人になってからお使いになるといいわ。」

アイシャドウを買って家に帰った娘は大人になるまで待つことが出来ず、
夜、こっそりとまぶたの上にアイシャドウをぼかしてみました。
それからは来る日も来る日もアイシャドウをまぶたに塗っては、
これから掴むさまざまな幸運を空想して、胸を踊らせました。

やがて、アイシャドウを付けたまま眠ると必ず同じ夢を見ることに気付きました。
それは一面の青い花畑を裸足で走っていく夢でした。
青い花はどうやらアイリスの花らしいのです。

aiai 



娘は周りから綺麗な目だと褒められていくうちに、
自分の目に自惚れていきました。

この目があれば幸せなど簡単に手にすることが出来ると。

これほど自分の容姿に自信を持てるなんて羨ましいですが、
いつも自分の目だけにとらわれて生きるのもなんだか淋しく感じます。

何も無いと思って自己否定してばかりよりは良いのかもしれませんが。

それにしても、アイシャドウの色をアイリスになぞらえたのは
本当に素敵な表現です。
神秘的な深い青は、上品に咲くアイリスにピッタリだと思います。


shasha 







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[ 2019/05/05 00:00 ] お話「や行」 | TB(-) | CM(0)

気の良い大工さんと不思議なベランダ『だれにも見えないベランダ』


『だれにも見えないベランダ』


☆あらすじ☆

ある町にとても気の良い若い大工さんがいました。
どんな仕事でも頼まれたら気軽に引き受けます。

立派な腕を持っていましたが、たいへんなお人好しでしたから、
いつも報酬の無い仕事ばかりに追われていました。
そして、いつも貧乏でした。

ある晩のこと、大工さんの部屋に一匹の野良猫がやってきました。

そして、「ベランダをひとつ、作って欲しいんです」と。

それは、お世話になっている娘さんに素敵なベランダを作ってあげたいという
特別なお願い事なのです。

翌朝になると、すずめや鳩までもが「ベランダをつくってくれますね」と
言ってくるのです。

そして、大工さんは仕事を引き受けることにしました。

出来上がったベランダを空色のペンキで塗って、猫がおまじないをかけると
外からは影も形もなく、内側からしか見えないベランダになりました。


それから、何ヶ月か過ぎた頃、大工さんのところに小包が届きました。

中には香りの良い緑の野菜がどっさり入っていたのです。

そして、こんなカードが添えてありました。

”ベランダでとれた野菜です。
ベランダをつくっていただいたお礼です”



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娘さんから送られてきた緑の野菜。
レタスやセロリや芽キャベツ、つまみ菜にパセリにカリフラワー。
ベランダでこれほどの野菜をつくれるなんて驚きです。

娘さんの手入れが良いのか、それとも魔法のベランダだからなのか。
本当に素敵なベランダで羨ましいです。

私は植物を育てるのが下手で、自分でも驚くくらいあっという間に
なんでも枯らしてしまいます。

鉢植えの花や観葉植物、プランターに植えたプチトマトも
気がつけば全く成長が止まってしまって、そして枯れていきました。

ベランダで出来た野菜でサラダを作るなんて、憧れてしまいます。


paaa






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[ 2019/05/04 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

お月さまのいたずら『天窓のある家』


『天窓のある家』


☆あらすじ☆

何年か前、友人の別荘でのことです。

色々悲しいことが重なり、参ってしまったぼくに
友人がそこへ行くことを勧めてくれたのです。
「誰もいなくて静かだし、山小屋でしばらく静養してきたらいいよ」と。
そして、春の初め三日ほどを、そこでたった一人で過ごしたのでした。

その家には天窓がありました。
ぽっかりと真四角に切り取られた天井の穴にはガラスがはめこまれていて、
昼間は少し眩しいですが、夜には星や月が見えました。

庭にはこぶしの木があって小屋の屋根半分に覆いかぶさって枝を広げ、
真っ白な花がたくさん咲いていました。

三日目の満月の晩のこと。
月の光がことさら明るく、天窓の下に敷いた布団の上に、
こぶしの木の影がくっきりと落ちていました。

思わず手を伸ばして枝についた花の影に触ってみると、
銀色に光りはじめました。
ぼくはその銀の花を一輪摘んでみました。
すると本当に花の影がつまめたのです。

朝目を覚ますと、ぼくは昨夜の銀の花を握っていました。

そして一枚の花の影を自分のものにしたときから、
不思議な声が聞こえてくるようになりました。

”かえして かえして 影をかえして”と。


kobukobu



思いがけず何かを手に入れてしまったとき、
それがあんまり魅力的で心揺さぶられるものであったなら、
きっと、手放すのが惜しくなってしまうのでしょう。

たった一枚の花影から木の養分をもらったおかげで元気を取り戻した「ぼく」。

そして、それとは対照的な状況になったこぶしの木。

何年も経って、その後のこぶしの木のことを知って
「すまなかったな」と口にはした「ぼく」の心情を思い、
なんだか私は淋しさや諦めのような感情が湧いてきました。

本当の気持ちはどうなんだろうか。
もしかしたら、相手が人間ではなければ、後悔や謝罪の気持ちは
薄れるものなのかな。

それが、自分を含めての「人間」なのかなと考えさせられた物語でした。

tete






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[ 2019/05/03 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)
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すきっぷ

Author:すきっぷ
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


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