童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2019年03月

ひとりぼっちのおばあさんと不思議なスカーフ『黄色いスカーフ』


黄色いスカーフ


☆あらすじ☆

間近のある朝、外出時に大きなスカーフを持っていくと便利だという
新聞記事を読んだ、一人暮らしのおばあさん

なるほど、私も試してみようかしらと、たんすの中から
目も覚めるような鮮やかな黄色い絹のスカーフを取り出してみました。

すると、心が明るくなってどこかへ出掛けたくなりました。

いそいそと、濃いオリーブ色の新しいワンピースに着替えて、家を出ました。

並木道を歩いていると風が吹いて髪が乱れたので、
さっそく黄色いスカーフで髪を包んでみました。

そして、通りがかりのクリーニング屋のガラスに写った自分を見て
たちまち真っ赤になってしまいました。

頭にカナリヤ百羽乗せてるみたいな派手な姿だと思ったのです。

大急ぎで黄色いスカーフをむしり取ると、クシャクシャに丸めて
バッグに放り込みました。

急ぎ足で歩きながら、おばあさんは恥ずかしくてたまりません。

すると、いきなりバッグからこんな声が聞こえてきました。

「ひろげて、ひろげて」
「こんなにクシャクシャにされたんじゃ、息もつけない」

それは、バッグに丸めて放り込んだ、黄色いスカーフの声でした。


kiki



ひとりぼっちで暮らしている主人公のおばあさん
が近づく陽気に誘われてどこかに出掛けてみたくなりました。

こんなときに、電話でもかけて気軽に話のできる娘でもいたら…
という思いが湧き上がってきましたが、まだ元気だし、住む家もあるし、
お金にも困っていないのだから、そんな贅沢は言わないことにしましょうと、
思いを打ち消していきます。

そして、「私は幸せ者です」と、自分に言い聞かせるように
一人で出掛けて行くのです。

不幸じゃないけれど、なんだか胸にある淋しさに気づく瞬間。

けれど、これまでの生活は自分で選んできたことも事実。
それを分かって、何不自由なく暮らせている自分は幸せだと…。

少し切なさや淋しさを感じてしまうお話なのですが、
の雰囲気や暖かい季節の楽しみも感じられる作品です。

黄色いスカーフ、黄色いオレンジ、黄バラ、
黄色いカナリヤ、黄色いブリン

桜のピンク色も可愛いけれど、黄色もに似合いますね。





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[ 2019/03/31 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)

森の小さな病院とうぐいすのお話『うぐいす』


うぐいす


☆あらすじ☆

森の中に、年取ったお医者さんと年取った看護婦さんの夫婦だけで営んでいる
古い小さな小さな病院がありました。

玄関のドアには「みならいかんごふさんぼしゅう」の張り紙がしてありますが
まだ来てくれる人はいませんでした。

お医者さん看護婦さんも疲れ切っていました。
この病院も、もうおしまいにしなければならないだろうかと思うのですが、
頼ってやってくる村の人たちを思うと、なかなか決めかねずにいました。

あるの明るいお月夜の晩でした。
「こんばんは」と玄関で呼ぶ声がしてお医者さんが出てみると、
とても小柄な若い娘が立っていました。

そして、「わたし、看護婦さんになりにきました」と言うのです。

それは以前怪我の治療をしてあげたうぐいすでした。

怪我をして病院の庭に倒れていたところを近くの子供が拾って
お医者さんに預けた緑色の小鳥でした。



ugugu




このお話の絵がとても素敵で好きです。
森の中の小さな病院。
お医者さん看護婦さんご夫婦。
そして、小枝のように華奢で小さいうぐいす看護婦さん

の柔らかさを感じられる絵で、本のページをめくるたびに
優しい気持ちになりました。


寒さの中にも暖かい陽射しが混じるようになった今日この頃。
そして、うぐいすの声を聞く回数も増えてきました。

姿は見えないのに、あの「ホーホケキョ」って鳴き声が
どこからともなく聞こえるとの気配を感じられて嬉しくなります。





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[ 2019/03/21 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

そんなら、僕と旅にでましょう。『かばんの中にかばんをいれて』


ゆめみるトランク』~北の町のかばん屋さんの話~より
かばんの中にかばんをいれて


☆あらすじ☆

北の町の町外れにある小さなかばん屋さん。
三代目の主人、上原一郎さんは腕のいいかばん職人ですが、
商売は上手くなくてお客さんもあまり来ないようです。

一郎さんが店の中で仕事をしていると時々不思議な声がします。

「たいくつでたいくつで、やりきれない」
かばんは、かばんらしい暮らしがしたいよ」

それはショーウインドーに飾られた古いトランクでした。

トランクは夢見るように言いました。
「わたしはいっぺん電車に乗ってみたいのです。
中にいろんなものを入れて、旅にでたいのです。」

急き立てられて一郎さんはトランクと旅に出ることにしました。

北の町はまだ、北風が雪の粉を撒き散らす寒い季節です。


banban



新しいかばんを買うときのワクワク感を思い出しました。
洋服のように頻繁に買い換えしないこともあって、
どのかばんが良いかとても時間をかけて選んでしまいます。

見た目はもちろん、どのくらい入るかとか、中にポケットは付いているかとか。
作りはしっかりしているかなんていうのも気になります。

あとは、値段ですね。
良いな~って思うのは、やっぱりそれ相当の良いお値段。

そして手に持ってみたり、肩にかけて鏡にうつしてみたりすると、
また印象が変わってきたりして…迷う~~~。

最近はあまり頻繁に買うこともなくなりましたが、
あれやこれやと見ている時間は楽しいひとときです。

そういえば、この物語に出てくる大きなトランク
子供の頃、外国のドラマか映画を観ていたときに、
旅をしていた女の子が持っていたのがこんな感じのトランクで、
なんかレトロな雰囲気があって素敵だなって思った記憶がありました。

いつかわたしもこんなトランクで外国を旅行したいって。

それで大人になって、実際お店で見つけて持ってみたら…重い。
かばんだけでこんなに重くちゃ持ち歩けないって、
買うの諦めました。

情緒があるというか、雰囲気が素敵なトランクでした。





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[ 2019/03/17 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)

味の小人がくれた魔法と大切な約束『魔法をかけられた舌』


魔法をかけられた舌

☆あらすじ☆

突然の不幸で父さんのレストランを受け継いだ洋吉。
怠け者だった洋吉は評判だった父の味の秘密を知ることなく
ひとりぼっちになってしまいました。

「何もかもおしまいだ」そう思った時、
コックの身なりをした小人が立っていました。

それは食料品の倉庫になっている、地下室の番人をしている小人でした。

店を売ってしまおうかという洋吉に、たった一つ大切な約束を守ってくれるならと、
とびきりの魔法をかけてくれたのです。

小人がくれた魔法、それは失意の中にいた洋吉にとって希望の光でした。
これからは真面目に一所懸命に料理の勉強をして、
父さんが遺してくれたレストランを守っていくと誓ったはずでした。

しかし、魔法のおかげでいとも簡単に欲しいモノを手に入れてしまうと
父さんが遺してくれた味も、小人との大切な約束もすっかり忘れてしまったのです。

shop1.jpg



洋吉は、努力をしなくても思い通りにいってしまったために、
大切な小人との約束を忘れてしまいました。

もしかすると小人はこうなることが分かっていたのかもしれません。

三十年も食料品の倉庫になっている地下室の番人をやっていて、
そのご褒美にごちそうにもありついていたというのですから、
あまりに違いすぎる父親と息子のことも分かっていたのでしょう。

それでも、この店の味が消えてしまうのは惜しいと、
洋吉に望みを託したのだと思います。

欲しいものが簡単に手に入ったとき、人は自分の実力を錯覚して
傲慢になっていきます。

大切な約束も忠告も、都合の良いように無かったことになっていきます。

でもそんなごまかしは、いつかは消えていくでしょう。

いつか、心の底から手に入れたいものが出来て、
それが手に入らなかったときに今までの過ちに気づくのだと思います。

そして洋吉も、自分の過ちに気づいたとき、辛抱強く待っていてくれた小人に
謝罪と感謝の言葉を口にします。

小人は洋吉を責めるようなことを言いませんでした。

「ずいぶん待ちましたよ」
その言葉だけで小人の気持ちが痛いほど伝わってきました。

父親と小人が残してくれた大きな愛に気づいて、
洋吉は変わっていくでしょう。

地下室から調理場へと階段を上っていく姿に清々しい思いがしました。




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[ 2019/03/13 00:00 ] お話「ま行」 | TB(-) | CM(0)

雪に埋もれた小さな家から聞こえてくるのは『すずをならすのはだれ』


すずをならすのはだれ


☆あらすじ☆

寒い寒い2月のこと。

真っ白な森の中を、真っ白なうさぎが通りかかりました。

「よもぎの葉っぱを三十枚、ハコベの葉っぱを十五枚…」

うさぎはこれから森の向こうの町までおつかいに行くところです。

あんまり急いでいたので、ツルッと滑ってしまいました。
滑った拍子に、をかぶった小さな一軒家にドシンとぶつかってしまったのです。

小さな家の扉には磨き上げられた銀色のが付いていて、
”ごようのかたはすずをならしてください”なんて書いてあります。

すっかり嬉しくなったうさぎの紐を引っ張ってみました。

ちり、ちり、ちり…

すると家の中からこんな声が聞こえてきました。

「とびらのすずをならすのは、だれ?」

きれいな、優しい声でした。


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厳しい寒さが続くと、暖かいが待ち遠しいのは人間も動物も植物も
おんなじなんですね。

動物たちがの下に眠っている花や草の種たちを励ます歌を歌ってるなんて、
私も仲間に入れてもらいたくなりました。

もうはとけるよ、陽射しもやわらかくなってきたよって、
凍えそうな種に歌声で元気を届けたくなりました。

日本には四季があって、夏秋冬、どの季節も大切なときです。

でも、私は寒い季節が苦手なので早くが来ないかなって思ってしまいます。

あと十日ほどで分の日です。

眠っていた植物の種が芽を出すのも、もうすぐです。

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[ 2019/03/10 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

煙の中の楽園『熊の火』


熊の火

☆あらすじ☆

小森さんは山の中で仲間に置いてきぼりを食って、
何日もさまよい歩いていました。

足を挫いた小森さんを、仲間ははじめは気遣ってくれていましたが、
日が暮れて雨が降り出すと、みんなの足取りは早くなって
とうとう追いつけなくなってしまったのです。

闇の中、疲れと寝不足のかすんだ目に、ちらちらとタバコの火が
動いているのが見えました。

「向こうから人が来る、助かった」と思いながら近付いて来る姿を見ると
それは二本足で立って、タバコを咥えている大きなだったのです。


kkk


山の中で仲間から置いてきぼりを食った若者は人間社会にも仕事にも
嫌気がさしていました。

心身ともに弱っていたときに偶然出会ったの話を聞いているうちに
からの提案を受けることのほうが幸せかもしれないと思うようになります。

そうして幸せを手に入れたはずなのに、その幸せに慣れてくると
逃げるようにの話に乗った弱気な自分が情けなく思えてくるなんて、
本当に人間って厄介だなと思いました。

毎日が穏やかで、何不自由なく暮らせる場所を手に入れたら、
ずっとそこに居続けたいと思うような気がするのですが。

それとも、やっぱりこの若者のようにその幸せを手放したくなるときが
来るのでしょうか。

今の現実に不満を持って、逃げ出したくなることも多いけど、
人間として生きる場所でしか生きられないってことなのかもしれません。


kemu










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[ 2019/03/03 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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