童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2017年03月

くまの楽器屋さんと寒がりうさぎ『はるかぜのたいこ』


はるかぜのたいこ

☆あらすじ☆

一匹のうさぎがやってきました。

うさぎはセーターの上にオーバーを着て、
厚い靴下の上にブーツを履いていました。
おまけに手袋と襟巻き、マスクをしていました。

そして熊のお店の前に来たとき「はっくしょん」と
大きなくしゃみをしました。

気づいた熊はお店の中から大きな声をあげました。
「おや、誰かと思ったら寒がりうさぎさん」

あったかくなるいい方法を聞かれた楽器屋さんは
「そんならいい楽器がありますよ」と持ってきたのは大きなたいこ

うさぎがチカラいっぱい、どーんとたいこを叩いて目をつぶると、
あたたかい風がふうっとかかってきました。


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春の風を連れてくるたいこ
ひとつ、またひとつ叩くたびに春を感じられる。
あの何とも言えない振動に乗せて春風を連れてくるのでしょうか。

楽器なら、案外できるかもしれないなんて思ってしまう。

「音」って見えないのに不思議です。
楽しかったり、嬉しかったり、悲しみや怒りだったり、
いろんな表情が見えるみたいに感じるし、聴こえるのです。
錯覚なのかな、でも錯覚でもいいんです。

そういえば、春の音ってなんでしょうね。
山間部じゃないと雪解けのせせらぎの音なんて聞こえませんし、
木々の芽吹く音や、桜が舞う音…聞いてみたいですけど。

現実的なことを言うと、私はウグイスの声くらいしか思い浮かびません。
春先にちゃんと「ホーホケキョ」って鳴けない声が聞こえたりするの
けっこう好きです。
「がんばれっ」って心の中で言ってみたりして。









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[ 2017/03/12 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

黄泉の国へのお使い『白いおうむの森』


白いおうむの森

☆あらすじ☆

みずえは毎日スダア宝石店にやってきました。

お店のゴムの木にとまっている白いおうむに会うためです。

みずえはずいぶん前からこのおうむに言葉を教え込もうとしていました。
それは一度も会ったことのない、おさんの名前でした。
みずえが生まれる少し前に、別の世界に逝ってしまったのです。

知っているのは写真に写った姿だけ。
いつしか、みずえは会ってみたいと思うようになりました。
それがだめなら、手紙を書いてみたいと。
でも、どうすれば手紙を届けることが出来るのでしょう。

スダア宝石店のオウムを見つけたとき、
みずえは胸が痛くなるほどドキッとしました。
鳥は黄泉の国にお使いすると誰かが言っていたのです。
大きくて真っ白で、ものを言うこの鳥なら、
神秘の国を知っているに違いないと思いました。


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もう会うことの叶わない誰かを想う気持ちはきっと届いてる。
そう思わせてくれると同時に、生きているものはそこに行ってはいけない、
そんな怖さを故意に感じさせている物語のように思いました。

会いたくて募る思い。
一緒にいられるのなら、向こうの世界に…なんて。
そんなこと、きっと向こうの世界の人は望んではいないでしょう。

会いたい人、いつの間にか向こうの世界に行ってしまった人のほうが、
多くなってしまいました。

どうか、そちらの世界がこの木漏れ日のように光射す場所でありますように。









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[ 2017/03/08 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

真面目で正直者の青年に込めた思い(見習いコック:島田しまお)


世渡りの下手な青年

『海の館のひらめ』の主人公、島田しまおは真面目で働き者の青年ですが、
貧しく学歴もなく、人に取り入るのが下手な不器用な人間です。
料理を作ったり、食べたりするのが大好きで一人前の料理人になりたいと
人の嫌がる仕事も喜んでしていました。
しかし、料理学校も出ていなく、上司や先輩のご機嫌取りも出来ないしまおは
いつしか同僚や後輩にまで先を越され、ずっと下働きのまま。
馬鹿にされたり怒鳴られたり、悪口を言われる日々を送っていたのです。

作者である安房直子さんはこの青年にどのような思いを込めていたのでしょうか。

のちに安房さんはこのようにお話をされています。

「”正直でまじめな人間が、損ばかりしているのが
私は我慢ができませんでねえ”
この魚の言葉は、そのままこの作品を書いた頃の
私の思いでした。」


物語のしまおは、ひらめの助けを借りて成長していきます。
自分のお店を手に入れ、料理の腕を磨き、可愛いお嫁さんまで。
でもそれを達成できたのは、真面目にひらめの言いつけを守り、
料理の腕が上達しても得意になってひけらかしたりせずに、
それまでと同じように下働きを続けた誠実さにあったように思います。

こういう青年であって欲しいというのも安房さんの願いだったのかもしれません。



『海の館のひらめ』に込めた思い

それまで作品の中に自分の人生観や重いテーマを込めたことはあまりなかったとの
前置きをした上で、この作品を書くに至ったのは我が子を集団の中に入れた時、
一見美しい子供の世界に「正直者が馬鹿を見る」という現実を
目の当たりにしたからだったとのことでした。
傷ついて帰ってくる我が子に「もっとしたたかに、やられたらやり返しなさい」とは
どうしても言えなかったという安房さん。

「誠実に、一生懸命生きている人の上には、
必ず幸福の星がついているんだよということを
伝えたくてこの作品を書きました。」



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子供の世界だけでなく、大人の社会でも真面目に正直にやっていても
報われないことはたくさんあります。
もっとずる賢くしたたかに、やられたらやり返せば
自分が得をするんだろうかと考える時があります。
でも、そんなことで人を欺いて、人を蹴落としてまで
得を手にすることがいいことなのか、そう思ってしまう自分がいます。

「どんなに損をしても、真面目で正直なのが一番だと、
今、辛い思いをしても神様がちゃんとみているよと
教えたかった。」


この言葉に救われた思いがしました。



※安房直子コレクション2『見知らぬ町 ふしぎな村』より引用させて頂きました。
 







不思議なひらめと正直者の見習いコックのお話『海の館のひらめ』


『海の館のひらめ』

☆あらすじ☆

島田しまおは、アカシヤというレストランで働いている青年。
料理人になりたくて十六歳からこのレストランで働いていますが
もう六年ほどになるというのにいつまでも下働きのままです。
それでもしまおは、人の嫌がる仕事も真面目にしてきました。

しかし、正直者で融通が利かなくて人のご機嫌取りが下手なしまおを
他の料理人は馬鹿にし意地悪な言葉を投げかけるのでした。

もう辞めようと思ったある日のこと、不思議なひらめと出会い、
「あなたを一人前の料理人にしてあげる」と言われるのです。

レストラン.jpg


真面目にやっているのにうだつが上がらないしまおに
いつの間にか自分を重ね合わせていました。

報われない環境の中でも、ひらめの言葉を信じて行動し、
幸せへと歩いて行くしまおの姿に嬉しくなりました。



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[ 2017/03/05 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

亀からもらった不思議な時間『だれも知らない時間』


『だれも知らない時間』

☆あらすじ☆

漁師の良太はおばあさんと二人暮らしの元気な若者。
貧乏だけれど毎日忙しくて、網にあいた小さい穴を繕う時間もないほど。
ある日、貧乏暇なしでやりきれないと嘆いていると、大きな亀と出会ったのです。

もう亀は二百年も生きていました。
それでも、あと百年も命が残っているのです。
最近では大きな体を動かすのがおっくうになって眠ってばかり、
見る夢も同じで飽き飽きしていました。

暇が欲しいという良太に亀は自分の時間を分けてあげるというのです。
コップ一杯のお酒と引き換えに。

そして良太は夜中の十二時からの一時間、
誰も知るはずのない秘密の時間を持ったのでした。


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お酒と引き換えに自分だけの時間を手にした若者。
そして、この物語にはもうひとり亀から時間をもらった少女がいました。
それは、もう本当に”賭け”と言うしかないものと引き換えにして。

誰かの時間を貰うってことは、命の時間を貰うことと同じ。
そのためには大きなリスクを伴うことも覚悟しないといけないこと。
時間をもらうなんてありえないことですけれどね。

生きるもの全てに平等にある二十四時間という一日。
全く足らないと思う人もいれば、有り余っていると感じる人もいるでしょう。
私といえば…きっと時間はあるはずなんだと思います。
使い方が下手なのか、効率が悪い動きをしてるのか、
なんだか何もしないで休日が終わってるなんてことがよくあります。
きっと、考えて動けば十分な時間なのかもしれません。

でも、「何をしていても誰にも知られない時間」なんてちょっと惹かれますね。





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[ 2017/03/04 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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