童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2016年12月

数奇な宿命で結ばれた娘と鹿のお話『天の鹿』


『天の鹿』

☆あらすじ☆

鹿撃ちの名人清十郎さんはある日不思議な鹿に出会いました。

見事な角をもつりっぱな牡鹿でした。

鉄砲の引き金を引こうとする清十郎さんに牡鹿は言いました。

「ここを通してくれ。そのかわりに宝物をあげるから」と。

清十郎さんには三人の娘がいました。
縁談話がある長女のたえ、次女のあや、そして三女のみゆき。
娘たちに宝物を持って帰ったらどれほど喜ぶだろう。

宝物があるという鹿の市へ清十郎さんは鹿に乗って行きました。

鹿の市からの帰り道、鹿は清十郎さんにこんなことをたずねました。

「昔、鹿のキモを食べたのは三人の娘のうちのどれかね。」

そういえば、昔どの娘かが病気をした時に牡鹿のキモを炙って
食べさせた覚えがあります。
でも、どの娘だったかすっかり忘れてしまっていました。

鹿は悲しみに震えているようでした。
そして、去っていく後ろ姿は寂しげでまぼろしのようでもありました。


shika.jpg



自分のキモを食べた娘と出会えて救われた牡鹿。

娘はこの宿命をどんな思いで受け入れたのだろう。

娘は、鹿と出会うずっと前からその存在を感じていたようだけれど。
思いもよらない相手だったとしても喜んで受け入れられたのだろうか。
それとも、鹿であることも知っていたんだろうか。

牡鹿のキモを食べたために動き出してしまった娘の運命。

牡鹿もまた同じ。

「あんたは、わたしの気持ちがよくわかるんだねえ」

「わたしはずっとまえから、あんたを知ってた気がするもの」

牡鹿と娘がお互いに探して思い焦がれてやっと出会えた、
その想いに救われる気がしました。





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さあ行こう!月がしずむまで、僕は自由だよ。『空にうかんだエレベーター』


『空にうかんだエレベーター』

☆あらすじ☆

大きな町の大通りにできた、子供服のお店。

綺麗に磨き上げられたショーウインドーには
セーターを着た大きなうさぎのぬいぐるみが飾られています。
そのうさぎは毎日ピアノを弾いていました。
そして、なぜかちょっと拗ねているようにも見えるのです。

毎日見に来る女の子「ともちゃん」はうさぎが大好きです。
じっとうさぎを見つめては、ピアノの音に耳を傾けます。
すると、本当にピアノの音が聞こえてくるのです。

ある日のこと、うさぎはこんな歌を歌っていました。

「満月の晩に、またあいましょう♬」


透き通った四角い箱に乗ってお月様に一番近いところまで…。

女の子とうさぎは月の光を浴びて夢のような時間を過ごしました。

でも、それは月が西の空にしずむまで。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのでした。


kenban-piano.jpg



ショーウインドーに飾られているうさぎのピアノの音に気づいたのは
きっと、この女の子だけだったのかもしれません。

行き交う人たちは飾られている服ばかりに目がいって
ピアノの素敵なメロディに気づいてくれなかったから
うさぎはちょっと拗ねてしまったのかも。

そんなうさぎのピアノに真剣に耳をすませ褒めてくれた唯一の存在。

気づいて認めてくれたことが嬉しくて
女の子だけに満月の夜の魔法を教えてくれたのでしょう。

存在に気づいてくれて、認められること。

簡単なようでなかなか報われないのですが、
きっと、誰でもがそれを願っているのだと思うのです。

寒い季節に、心がふんわり暖かく感じる物語です。




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[ 2016/12/18 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

黒マントを着た黒猫が教えてくれた素敵なこと『ひぐれのお客』


『ひぐれのお客』

☆あらすじ☆

裏地やボタンを売っている小さなお店のお話。

ある冬の初めの日暮れ時、めずらしいお客様がやってきました。

真っ黒いマントを着た、緑の目をした真っ黒い猫。
猫のマントは上等のカシミヤです。
寒がりの猫はマントにつける裏地を探しにやってきたのです。

赤色の裏地を付けたいと言う猫に
店主の山中さんは裏地を選んであげるのですが…。


暖かい火.jpg



赤と一口に言ってもきっと思い浮かべる色は人それぞれでしょう。

太陽の赤、炎の赤や、真紅のバラの赤や、郵便ポストの赤、
オレンジがかった赤、青みがかった赤や黒が混ざったような赤。

人工的に作られた赤と、自然の中の赤。

人ひとりひとりに個性があるように、
色にも優しい気持ちにさせてくれる色や、
慰めてくれたり、包み込んでくれたりする色、
寂しくなってしまったり、攻撃的だったりする色があって、
その時の気持ちで良くも悪くも惹かれるのだと思います。

それにしても、安房さんは色の表現がとても豊かです。
文字を目で追っているだけなのに色のついた情景を
思い浮かべることができます。
思いがけない素敵な景色を見せてくれるのです。




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[ 2016/12/11 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

はた織りの青年が求めた憧れの果て『銀のくじゃく』


『銀のくじゃく』

☆あらすじ☆

ある南の島に、腕の良いはた織りの若者がいました。

寝食を忘れるほどに仕事熱心で、
いつもはた織りの新しい模様のことを考えていました。

藍色の大きな蝶や、空の星、青い空ばかりか、
いつしか目に見えない夢や悲しみ、歌なんかを
布の中に表現してみたいと思うようになっていました。

月も星もないある夜、黒ずくめの老人が訪ねてきました。

「ぜひ、あなたに織って頂きたいものがあるのです」と。

それは心を動かされる仕事の依頼でした。


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”おそろしい思いをするかもしれない”と分かっていても
自分の思うような美しいものを作ってみたいという気持ちは
止められなかったのでしょう。

そう思い込んだら引き返せないのかもしれません。

思い通りのものを作り上げたとき、若者はもう元の若者ではありませんでした。
夢と引き換えにたどり着いた果ては…。

きっと、私はこんなふうに何かに夢中になんてなれない。
憧れた夢に手を伸ばした若者が少し羨ましく思えます。

そう思うと彼が選んだ道をただ非難する気にもなれないのです。

終始、薄い霧がかかったような情景を想像しました。
幻想的で淋しさが残る物語です。




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プロフィール

すきっぷ

Author:すきっぷ
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


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