童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
童話作家 安房直子さんが遺した景色 TOP  >  2013年08月

北風の少女が教えてくれたこと『北風のわすれたハンカチ』


『北風のわすれたハンカチ』


☆あらすじ☆

寒い山の中にひとりぼっちのくまが住んでいました。

家のドアにはこんな張り紙がしてあります。

”どなたか音楽をおしえてください。
 お礼はたくさんします。 くま ”


あるとき、熊の家の扉をトントンとたたく音がしました。
重い扉を開けると、髪の毛からつま先まで冷たい青色をした男の人がいました。
その人が乗っている馬もたてがみからひずめまで真っ青です。

嫌な感じはしましたが、男の人が持っている金色の楽器を見つけると、
熊の心は明るくなっていきました。


tora.jpg



北風が置いていったハンカチ

北風の忘れ物がハンカチだなんてなんだろうって。
『北風のわすれたハンカチ』というタイトルが目を引きました。

ハンカチが風に飛ばされて旅をしていくお話が
頭に浮かびましたが全く違いましたね(笑)

タイトルは「わすれた」になっていますが、
私は故意に「置いていった」ような気がしています。

「いつかきっと、ハンカチを受け取りにまた来るよ」という
メッセージを込めた北風の少女の優しさが感じとれました。


音楽さえ覚えれば淋しくなくなると思っていた一人ぼっちのくまが、
北風の少女とのつかの間の幸せな時間を過ごした
優しくて暖かい気持ちになるお話です。




音楽に癒されたいという想い

この物語のくまは、音楽さえ覚えれば淋しくなくなる、
何もかも忘れられると思って、
楽器を教えてもらいたいと思っていました。

私が最も共感したところです。

音楽はずっと、そして今も、私の心の拠り所です。

悲しい時には、優しいメロディに慰められ、
嬉しい時にはアップテンポの軽快なリズムを楽しんだり、
気持ちが荒んでいる時には攻撃的な曲を聴いたりしたこともあります。

ヘッドホン.jpg

音楽の中に身を委ねていると、
現実を忘れられるような気がしていました。

良いことも悪いことも、楽しいことも悲しいことも
全て実態のないもの、現実ではないものだと思えて
現実逃避の道具にしていたような時期がありました。

でも、音楽に逃げるのって一過性のものなんだと
今は思うようになっています。

今、私にとっての音楽は現実逃避するための道具ではなくて
悲しい時や辛い時の気持ちに寄り添って
落ちて行きそうな気持ちをすくい上げてくれるような、
嬉しいことや楽しいことがあったときには
一緒に喜んでくれているような、
大切な存在になりました。



「雪も、落ちてくるときには音をたてるのよ。」

北風の少女は、雪にも風にも雨にも歌があることを
くまに教えてくれます。

吹雪.jpg

普段気にも止めない自然にも確かに歌があることを
気づかせてくれたのです。

今の時代はたくさんの音が溢れています。

いつでも好きな時に好きな音楽が聞けて、
家電製品も音が鳴って教えてくれるし、
音がなく過ごすことなんてないんじゃないかと
思えるくらいです。

私も以前は、何か音楽やテレビの音が無いと淋しくて、
とりあえずテレビを付けるのが習慣になっていました。

この物語は自然にも音楽はあるんだよと
教えてくれています。

何も付けずに無音のような中に身を置くと
それでもしっかり自然の音を感じられる時があります。

風の音、雨の音、木々の葉が風に触れる音、
最近では水の流れる音に癒しを感じたりしています。

自然が聞かせてくれる音楽に耳を傾ける時、
何か大切な事を伝えてくれているような気がしています。



関連記事:自然からのメロディ


 
   
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[ 2013/08/24 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)

文字で表現する色彩

ききょう畑の風景

なぜ私が『きつねの窓』に惹かれたのか。

全編を通して読み終えたとき、
印象に残ったのは「ききょう」という花の名前と
を表現している言葉でした。

ききょう.jpg

「みがきあげられた青いガラスのように」
青いききょうの花畑」
の前かけ」など。

この作品の中には青色に関しての表現が多かったのです。


私は物心ついた頃からずっと、好きな色は青でした。

当然、洋服は青や水色や紺色と言った青系のものばかりでしたし、
持ち物も青系のものが多かったです。

一人暮らしをする時、インテリアグッズを揃えた時も
気がついたら青系のものばかりでした。

「青色ばっかり」と友達に笑われたこともあります(^_^;)

何故、青色が好きなのか…。

私は清々しい澄んだ空を見ているのが好きなので、
その爽やかさに通じる青が好きなのだと思います。

そんな根っからの青色好きだったので、
この作品に惹かれたのかもしれません。

安房さんの表現する「ききょう畑」の青を
ありありと思い浮かべることができました。


安房さんご自身も「青色が好き」だったようです。

安房さんが「青」に抱いた思いは、一体どんなものだったのか。
「同じ色が好き」という共通点はどこで結ばれているのか、
そんなことを考えていると想像が尽きなくなりそうです。

好きだからこそ、「青」をあれほど表情豊かに表現できたのだと思います。



関連記事:ひとりぼっちの猟師と子ぎつねのお話『きつねの窓』


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[ 2013/08/14 00:00 ] 作品の魅力 | TB(-) | CM(0)

ひとりぼっちの猟師と子ぎつねのお話『きつねの窓』


きつねの窓


☆あらすじ☆

一人の猟師が、ぼんやりと考え事をしながら歩いていると、
道に迷ったのか今まで見たことのない一面ききょうが咲いている野原に出てしまいました。

あまりの美しさに、少し休んでいこうと腰を下ろしたとき、目の前を白いものが走っていきました。
それは、まだほんの子供の白ぎつねでした。

捕まえようと子ぎつねの後を追うのですが、
ききょうの花畑の中で見失ってしまいました。


その時、後ろで「いらっしゃいまし。」という声が…。

染物屋の店員に化けた子ぎつねに、
ききょうの汁で染めてもらったお指でひし形の窓を作り、その窓を覗くと、
もうけして会うことの出来ない懐かしい人に会えるのです。

kitakitsune.jpg



何故、猟師子ぎつねは出会ったんだろう…
何故、子ぎつねは自分の正体がバレてしまう危険をおかしてまで、
猟師の前に現れたんだろう…それが知りたくて、何度も読み返していました。

きっと子ぎつね猟師も孤独だと知っていたのかもしれません。

おんなじ、ひとりぼっち…。

もしかしたら子ぎつねのお母さんを「だーん」と鉄砲でやった相手かも知れません。

きっと子ぎつねはずっと猟師をみてきたのでしょう。、
そして、猟師の中にある淋しい気持ちに気づいたのかもしれません。
だから、ききょうの花から教えてもらった大切な魔法をくれたのだと思うようになりました。

少しでも、猟師の気持ちが癒されて前向きに生きられるように。

憎む気持ちと許す気持ち。

過去にしがみついて生きることと、未来をみて生きること。

そんなことを教えてくれている作品だと思えるようになりました。

ひとりぼっちの猟師と子ぎつねの、
切なくもあたたかい心の交流を描いた作品です。



一人ひとりの心に問いかけてくる物語


「安房直子さん作品」で検索してみると、
必ずといっていいほど、この作品のことに触れています。
きつねの窓』は安房直子さんの代表的な作品です。

この作品は学校教材(教科書)にも取り上げられているようですが
私にとっては解釈が難しい作品なので、受け入れられていることがとても不思議な思いがします。

人それぞれに自由な解釈を委ねられている作品だから教材として良いのでしょうか。


生前の安房さんの言葉に「ささやかな願い」として
とても印象深い言葉があります。

「私の作品は、あまり切りきざまずに、
まるごと読まれてほしいと願っています。」


この言葉が意味するところを私なりに解釈するとすれば、

「国語を学ぶための材料としてよりも、
子供たちの自由な創造の中で幾通りもの展開が生まれる事を願う」

そんなふうにも読み解ける気がしています。


私がこの作品を知ったのは中学生の時でした。

こちらにも書いていますが当時読んでいた少女漫画に、
きつねの窓』について書かれていたのを目にしてからでした。

主人公が子ぎつねや猟師のように、
指でひし形をつくって覗き込む場面がありました。

短い場面でしたが、とても印象に残っていて『きつねの窓』がずっと心の中に引っかかっていました。

それから数年後、偶然に街の本屋さんで再会することになり、
きつねの窓』のみならず、安房さんの作品に惹かれていくことになりました。



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[ 2013/08/14 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(2)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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