童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
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カテゴリー  [ お話「あ行」 ]

写真ができたら、届けてくださいね『オリオン写真館』

オリオン写真館

☆あらすじ☆

村の写真館で働いているおのオリオン。
もう三年も修業しているのに、まだ一度も写真機に触らせてもらえないのです。

オリオンは一大決心をしました。
「そうだ、独立しよう。」

驚いている写真館の主人にカメラを一台分けてもらい、オリオンは店を出たのでした。

村は桜の花ざかり、お花見や入学式が重なったせいで、道行く人たちに「写真屋さん、写真屋さん」と呼び止められて商売は大繁盛です。

そして夕暮れ時、「さあ、これから現像しよう」とカメラの蓋を開けたオリオンは叫び声をあげました。

肝心のフィルムが入っていなかったのです。
写真機の中は空っぽでした。

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★★★★★★★★★★


フィルムを現像していた時代のカメラあるある。
デジタルカメラしか知らない世代には考えられない出来事ですね。

やっとカメラを手に出来たオリオン。
ずっしりと重たい感触に喜びを感じ、四角いレンズを通して覗き込む不思議な楽しさ。
そして、初めて自分の報酬として手にする金貨。

そんな感動を一気に打ち砕く大失態をしてしまって頭をかかえて考えて出した結論。

オリオンのこの切り替え方、今までの私なら嫌な気分になっていたでしょう。
こんな展開、絶対あとで悪い結末になるからと思っていたところです。

オリオンの行動は褒められたことではありませんが、今まで写真館の主人に都合の良いように働かされていたことを思うと、導かれるようにたどり着いた場所から村人たちに送った写真にささやかではありますが、救われる思いがしました。





[ 2022/08/11 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(-)

海の町のお祭りと桜貝『海からの贈りもの』

海からの贈りもの

☆あらすじ☆

夏が終わって、海水浴のお客が帰ってしまったあとの海の町のお祭り。

病気のお母さんが「好きなもの買っておいで」と渡してくれた五十円玉二つをポケットに入れて、一人で夜店に来たかな子。

これで自分のものを五十円分、お母さんのお土産を五十円分買いたいなと思っていました。

いつもは「見るだけのお祭り」でしたが、久々にもらったお小遣いが嬉しかったのです。
でも、五十円で買える品物なんて、めったにありません。


すると、「一袋、五十円よ」という声が聞こえました。

りんご箱を一つ置いただけの小さな店に、青いネッカチーフを被ったおばあさんが座っていて、箱の上には綺麗な桜貝がたくさん並んでいたのです。


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★★★★★★★★★★



たくさんの人たちが賑わうお祭りの夜店。

もらったお小遣い全部を使ってしまえば買えるものはあったはずなのに、お母さんへのお土産の分を使わないように、半分のお金で買えるものを探していたかな子の気持ちが優しくて切なくなりました。

自分の分のお金で買った、たった一握りの桜貝に導かれ出会ったおばあさんたちからの、かな子の気持ちに呼応するような贈り物。

そのラストに暖かい気持ちになりながら、私にも贈り物を頂いたとき、気に掛けてもらえた嬉しさがあったことを思い出しました。





[ 2022/03/06 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(-)

雨の精の親子とお百姓『あまつぶさんとやさしい女の子』

あまつぶさんとやさしい女の子

☆あらすじ☆

林の中に、銀色の髪の雨の精が住んでいました。
あまつぶ母さんと子供のあまつぶぼうやです。

あまつぶ母さんは村が日照りの時に畑に雨を降らせては、干し柿やお餅のお礼をもらっていました。

ある日のこと、初めて持ち帰ったお砂糖をなめたあまつぶぼうやは、その美味しさがすっかり気に入ってしまいます。

それからは他の食べ物は見向きもしなくなりました。
困り果てたあまつぶ母さんは、お百姓のところにお砂糖を分けてもらえないか訪ねて行きました。

するとお百姓のおかみさんは、夏に自分のところのさとうきび畑にだけ雨を降らせてくれたら欲しいだけお砂糖を分けてあげると言うのです。

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★★★★★★★★★★



初めて口にしたお砂糖の美味しさにあまつぶぼうやはもっとお砂糖が食べたいとお母さんを困らせます。

子供だったらワガママを言うのは仕方ないことだし、お母さんもそれに応えてあげたいと思うでしょう。

そんな気持ちにつけこんだお百姓のおかみさん。

このあたりを読んでいるところから嫌な予感しかしなくて、もう気持ちが落ち着かなくなりました。


人間の嫌な部分を見せられたと同時に、自分にも突きつけられるものがあって、何だか言葉に出来ない思いに苦しくなったりしました。

そして、題名にある「やさしい女の子」。
犠牲になった存在なのか、救ってくれた存在なのか、そんな思いが頭をよぎりながら読み進めていきました。


私個人としては、可愛いタイトルにこんな展開が待っていたなんてと思うお話でした。


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[ 2021/09/25 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(-)

一緒にロシア紅茶を飲めるなら『あるジャム屋の話』

あるジャム屋の話

☆あらすじ☆

若いころから人づきあいの下手な私は、大学を卒業して就職した会社を辞め故郷に帰り、しばらくごろごろしていた時のことです。
実家の庭にある鈴なりのあんずでジャムを作ることを思い付いたのです。

くる日もくる日もあんずのジャムを作り続け、周りの反応に気を良くした私はますます熱心にジャム作りに励みました。

森の中に小屋を建てて、何度も失敗を重ねた末に、なんとか売り物になるジャムが作れるようになったのが翌々年でした。

食料品店に持っていけばすぐに買ってもらえると思っていたのですが、どこに行っても私のジャムは相手にされませんでした。

ある夜のこと。
小屋に戻ると誰もいないはずの室内から灯りがこぼれていました。
恐る恐る覗いてみると、そこには綺麗な牝鹿がいたのです。
テーブルには私の皿とティーカップ。
皿の上のパンには私の作ったいちごジャムがたっぷりと乗せられ、ティーカップにはジャムを落とした紅茶。

私はすっかり嬉しくなりました。
私のジャムを紅茶に入れて飲んでくれるひとがいるなんて。

「素晴らしいです。色も香りも最高です」と言ってくれた鹿の娘に、それでもジャムは全く売れないと言うと真剣な目をしてキッパリとこう言ったのです。

「それはあなた、きっと、売り方が悪いのです」


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


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商売下手でも美味しいジャムを作る「私」。
そして、良き理解者であり、良き協力者である娘鹿と一緒に作り上げたジャムはどんどん売れていきます。

そして、忙しい中にも一仕事終えてふたりで飲むロシア紅茶。

「いつまでも一緒にいられたら、それでいいんです」

偽らざる娘鹿の素直な気持ち。

ふたりの気持ちが通じあっていても、この姿のままでは…ということを、親鹿は分かっていたのでしょう。
そばにいる大切な存在が、周りから「普通で一般的」ではない「異質な」相手だと見られたら、この社会では生きづらく、もしかしたら排除されてしまうかもしれない。

ただ相手を思いあって一緒にいたいだけなのに、そんな切ない思いが込み上げてきました。


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物語は美味しそうなジャムや季節の果実が出てきたり、私にはふたりの会話まで聞こえてくるような気さえして、好きなお話です。

安房直子さんの数ある作品の中で、この表題で書籍にならないかなと思う作品がいくつかあるのですが、この『あるジャム屋の話』もその一つです。
挿し絵はどんな感じが良いかなとか考えだすと想像が止まらなくなるほどです。







[ 2020/12/13 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

木漏れ陽編みのレース『丘の上の小さな家』


丘の上の小さな家


☆あらすじ☆

丘の上に赤いえんとつのついた小さな家がありました。
その家には、お母さんとかわいい少女「かなちゃん」が住んでいました。

かなちゃんはいつも、ベランダの椅子に座ってレースを編んでいました。
細い銀の針で、真っ白い糸をすくい取りながら、
いつか自分が花嫁さんになる日のためのベールを編んでいるのです。

かなちゃんが十三歳になったある日のこと、
ベランダの柱にいる大きなクモに声をかけられました。

「あなたのレースと、ぼくのレースと、どちらが素敵でしょう。」

そこには見事なクモの巣が出来ていました。
クモのレースは美しい銀色で細かく編まれていて、
所々に昨夜の雨のしずくがビーズをはめたみたいに虹色に光っています。

「どうやって編むの?」

憧れでいっぱいの目でかなちゃんが尋ねると、
クモは「レース学院へおいでなさい」と言うのでした。

レース学院に行ったかなちゃんは難しい編み方をびっくりするほどの早さで覚え、
卒業証書と、レースの布と針、ビーズを持って家路につきました。

かなちゃんは「ほんの数時間」のつもりでした。
素敵なクモレース編みを覚えたくてちょっとのぞくだけのつもりでした。

それなのに、家に帰ってみると、帰りを待っていたのは一匹のだけでした。



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物語はじめは、絵に書いたような家と優雅にレース編みをする少女
優しいお母さんの日常が描かれています。
そして、クモに声をかけられてから少女の時間が不思議な世界へと
吸い込まれていきます。
ほんのちょっとだけのつもりで好きなことをして家に戻ってくると、
現実の世界は一変していました。

と、普通ならここで終わりそうなお話なのですが、
の手助けもあり、身につけたレース編みが生計を支えることになります。
それは森の中の木漏れ陽のようにきらめいて、はかなげな不思議なレースです。

レース編みをしているときは、ただ一心に、編むことだけに集中していられます。
悲しい気持ちも、その時だけは忘れられるのです。

かなちゃんが前向きになれたのは、帰りを待っていたのおかげかもしれません。
この、叱咤激励が上手で話し相手のみならず、電話の番や料理までしてくれる有能ななのです。

人生を変えてしまった趣味が、生きる支えになることもあるのかもしれません。
過ぎたことを考えて悲しんでいても仕方がないのです。

前向きになれたり、時々悲しみが押し寄せてきたり。
それでも、心が喜ぶことを見つけて、生きていかなくてはいけないんだなと気づかせてくれるお話です。








[ 2020/05/07 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

ひみつ ひみつ 誰にも言えない『うさぎ屋のひみつ』


うさぎ屋のひみつ


☆あらすじ☆

キャベツ畑の隣の小さい家に住んでいる若い奥さん
可愛らしくて気立てが良いのですが、大変な怠け者なのです。

家のことすべてが面倒で、朝旦那さんが家を出てしまうと、
日がな一日、窓のそばで椅子に腰掛けてレースを編んだり、
本を読んだり、一面のキャベツ畑をぼんやり眺めていたりするのです。

そして、夕方になるとため息を付いて
「あああ、今夜のおかずは何にしよう…」とつぶやくのです。

ある夕方のこと、窓のそばでやっぱりため息をついていると、
外でいきなり変な声がしました。

奥さん、今夜の夕食、お届けしますよ。」

外を見ると、そこには白いデニムのエプロンをかけたうさぎが立っていました。
そして、”夕食宅配サービス うさぎ屋”と書かれた名刺を差し出したのです。



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うさぎ屋のメニューには見ているだけでヨダレが出そうなほど
美味しそうな料理が並んでいました。

買い物も行かず、調理もせず、ただ待っているだけで一流の料理
食べられるのですから怠け者の奥さんには願ってもない話です。

でもね…、最近ふと思うのです。
家事や仕事で忙しい人や、なんにもやりたくないっていう怠け者だけが
夕食作るのしんどくて、うさぎ屋を利用するのでしょうか?

きっと毎日毎日、来る日も来る日も食事を作り続けている人は
時々、作るのが嫌になって、たまには誰かに作ってもらいたいよって
思うこともあるのではないでしょうか。

うさぎ屋の会費は月初めにアクセサリーを一つと交換で
ひと月の間、美味しい夕食が運ばれてくるのです。
これだったら、ちょっと試しに一ヶ月お願いしたくなります。

それにしても、欲というのは際限無いなとつくづく思いました。

そして、なんだかんだあっても、みんなたくましく生きているんだなと、
思わず笑ってしまったラストでした。


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[ 2020/04/29 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

もうすぐ一年生『うさぎの学校』


うさぎの学校


☆あらすじ☆

まり子はランドセルを買ってもらいました。
赤いピカピカのランドセルです。
ランドセルにノートやえんぴつを入れて毎日学校へ行く練習をしています。

「おかあさん、いってまいりまあす」

「はあい、いってらっしゃい。気をつけて」

お母さんはいつも楽しそうに笑って送ってくれます。

まり子は近くの野原を一周りして、また「ただいまー」と帰ってくるのです。


ある日の事、原っぱの桜の木のあたりで不思議な声を聞きました。

「おかあさん、いってまいりまあす」

「はあい、いってらっしゃい。気をつけて」

まり子はびっくりしました。
誰?私とおんなじこと言ってる ひと…。



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私の小学生の時代にはランドセルの色は赤と黒しかなくて、
当たり前のように女の子は赤、男の子は黒を背負って学校に行っていました。

今はいろんな色があってカラフル、好きな色を選べるのが羨ましいです。

赤が嫌だったわけでも、黒のほうが良いと思ったこともありませんし、
他の色があったらなと思ったこともありませんでしたが、
色を選択できる現実を目の当たりにすると、なんだか急に羨ましくなります。

今ではデパートでも売ってるし、テレビのCMなどでも目にすることはあるので
カラフルなランドセルにいまさら驚くこともないのですけれど。

でも、大人になって道で色とりどりのランドセルの小学生の列に出会うと、
いまだに嬉しくなって見てしまいます。
赤やピンクや紺や茶色のランドセル、自分が小学生だったらどれを選ぶかな?と。
空色のランドセルいいな~とか。


真新しい好きな色のランドセルを背負った新一年生に会えるのは
もうすぐですね。





[ 2020/03/29 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

耳の遠くなったおばあさんと山の風からの贈り物『秋の音』


秋の音


☆あらすじ☆

「この頃、耳が悪くなりまして電話の話がよく分からなくなりました。
…電話の代わりに手紙をください。どうか御用はみんな手紙にしてください。」

耳が悪くなってきたおばあさんは電話がかかってくるとこんなふうに一息に言うと
最後にごめんなさいと言って電話を切りました。

そとに出て誰かに会っても、話がよく分からなくなってきてしまいました。

耳が悪くなって、おばあさんの周りが静かになってくると
そのかわりにいろんなものを良く見るようになりました。

ベランダに咲いているコスモスや空一面の夕焼け雲を、
いつまでも眺めるのが好きになりました。

ある日のこと、小さな小さな荷物が届きました。
茶色い小包の後ろには「山の風より」と書かれてあります。
包みを開けてみると、中からくるみが三つ転がり出てきたのです。



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今まで聞こえていたのに徐々に耳が遠くなっていくことで、
代わりに目に見えるものを大切に感じていったおばあさん
それでも、聞こえないことで不安になることもあったでしょう。

山の風から届いたくるみは故郷を思い出させてくれるものでした。

でも、くるみが見せてくれたのは懐かしさだけではなく、
不思議で楽しい出来事でもありました。
そして、聞こえなくなっていた耳にも嬉しい奇跡が…。

安房さんのリズミカルで楽しくて優しい言葉に
気がついたら声を出して読んでいました。
わたしもこんなくるみ欲しいなと思ってしまうお話でした。






[ 2019/11/02 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

知ってしまった耳飾りの秘密『奥さまの耳飾り』


『奥さまの耳飾り』


☆あらすじ☆

お屋敷の奥さまが耳飾りの片方を無くしてしまいました。
薄桃色の大きな真珠の耳飾りで、お屋敷のどこかに落としたようなのです。

それは、奥さまが御結婚の時に旦那さまから贈られた品物でした。
旦那さまは大金持ちの貿易商でほとんどをの上にいるのだそうで、
小夜がこのお屋敷に奉公にあがって半年経つのですが、
まだ旦那さまにはお目にかかったことがありません。

その日の夕暮れ時、小夜は庭に落ちている耳飾りを見つけたのです。

くちなしの木の下に、こぼれた露のように落ちていた真珠
小夜は自分の右の耳につけてしまいました。

すると、小夜の耳に不思議な音が聞こえてきました。

それはの渚の音でした。


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その宝物はあまりに綺麗で魅惑的で、惹きつけられるものだったのでしょう。
小夜はこんなことをしてはいけないと自分に言い聞かせながらも
それを身につけてみたいという思いを抑えることが出来ませんでした。

真珠の耳飾りの秘密は奥さまと旦那さまだけの秘密でした。
たった一度だけならという思いが消してしまった悲しい魔法。

味戸ケイコさんが描く、夜の満月、そしてあれは奥さまの後ろ姿でしょうか。
なんとも切なく、悲しい、そして美しい挿絵が印象的です。






[ 2019/10/06 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

踊りが上手になりたいお嬢さんへ『うさぎのくれたバレエシューズ』


うさぎのくれたバレエシューズ


☆あらすじ☆

その女の子はバレエ教室に通い始めて5年も経つというのに
踊りが上手になりませんでした。

くるくると鮮やかに回れないし、先生の言うとおりに手も動きません。

それでも、音楽が鳴れば踊りたくてたまらなくなるのです。

女の子の願いはたったひとつだけでした。

「どうか、踊りが上手になりますように」


ある朝のこと、不思議な小包が届きました。
それは一足のバレエシューズでした。
そして、一緒に入っていたカードにはこんなことが書かれてありました。

「踊りが上手になりたいお嬢さんへ 山の靴屋」


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好きなのに、それが上達しないもどかしさや辛さ。

自分なりに頑張っているのに思ったように出来なくて、
他の人達がどんどん先に行ってしまう不安で押しつぶされそうになる。

願うだけでは叶わないと分かっていながらも、月や星、遠い山にまで
お願いをしてしまう気持ち。

これまでに何かに夢中になって、それでもうまく行かなかった経験がある人には
この少女の気持ちを自分に重ねてしまうのではないでしょうか。

物語のように、笑顔で終われなかった結果であったとしても、
夢中になれることが見つかって、もっと上を目指して努力する気持ちは
失くしたくないと思いました。

なにかに夢中になっているときって、私はただひたすらに楽しいですから。





[ 2019/05/19 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

向こうの崖から飛んできた赤い帽子『赤いばらの橋』


赤いばらの橋


☆あらすじ☆

緑色のの男の子が崖に腰掛けて、遠くを眺めていました。

「向こう側の崖には何があるのかなあ。」

はずっと前からそれが知りたかったのです。
南側の崖の上は、オリーブ色の森です。

やっぱりがいるのかな…。
はそう思いましたが、その森から聴こえてくる音楽を耳にしたとき、
がいるのではないと知りました。
はあんなに綺麗な音楽を知らないもの…。」

ある日、これまでにない激しい南風が吹きました。
そして、その風に乗って帽子が飛んできたのです。

うしろにリボンが結んである、赤いフェルトの帽子です。
そしてそれは不思議な甘い匂いがしました。
この帽子の持ち主はきっと女の子だと子鬼は思いました。

「いいにおいのする、可愛い可愛い女の子。」
ふと、胸の中をくすぐられるような気がしました。

「そうだ、返してあげなけりゃ」

子鬼は、勇んで立ち上がりました。


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向こうの崖には何があるのかな~とずっと考えていた小鬼

お母さん鬼に聞いてもろくな返事をしてくれない。

何があるのかな、何があるのかなって想像だけが膨らんでいたときに、
なんて良いタイミングで帽子が飛んできたものだから、
子鬼の衝動は止められるはずがありません。

おまけに自分に都合の良い想像で帽子の持ち主は
「いいにおいのする可愛い可愛い女の子」
なんとかして、僕が自分で行って、自分で返してあげたい…。

もう子鬼の思いは募るばかりです。

このあたりまでで、私も楽しい展開を想像していました。

はたして、子鬼は向こう側に本当に行ったのでしょうか。
可愛い女の子に出会えたのでしょうか。

子鬼の言動がなんとも可愛らしくて可笑しくて、笑ってしまいます。






[ 2019/05/02 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

森の小さな病院とうぐいすのお話『うぐいす』


うぐいす


☆あらすじ☆

森の中に、年取ったお医者さんと年取った看護婦さんの夫婦だけで営んでいる
古い小さな小さな病院がありました。

玄関のドアには「みならいかんごふさんぼしゅう」の張り紙がしてありますが
まだ来てくれる人はいませんでした。

お医者さん看護婦さんも疲れ切っていました。
この病院も、もうおしまいにしなければならないだろうかと思うのですが、
頼ってやってくる村の人たちを思うと、なかなか決めかねずにいました。

あるの明るいお月夜の晩でした。
「こんばんは」と玄関で呼ぶ声がしてお医者さんが出てみると、
とても小柄な若い娘が立っていました。

そして、「わたし、看護婦さんになりにきました」と言うのです。

それは以前怪我の治療をしてあげたうぐいすでした。

怪我をして病院の庭に倒れていたところを近くの子供が拾って
お医者さんに預けた緑色の小鳥でした。



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このお話の絵がとても素敵で好きです。
森の中の小さな病院。
お医者さん看護婦さんご夫婦。
そして、小枝のように華奢で小さいうぐいす看護婦さん

の柔らかさを感じられる絵で、本のページをめくるたびに
優しい気持ちになりました。


寒さの中にも暖かい陽射しが混じるようになった今日この頃。
そして、うぐいすの声を聞く回数も増えてきました。

姿は見えないのに、あの「ホーホケキョ」って鳴き声が
どこからともなく聞こえるとの気配を感じられて嬉しくなります。





[ 2019/03/21 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

不思議な少女と出会った雪降る海沿いの町『海の雪』


海の雪

☆あらすじ☆

が降りしきる海沿いの町。
少年が一人、バスから降りてきました。

「海岸通り四丁目」
そうつぶやくと、少年はあたりを見回しましたが、道を訪ねようにも誰一人見当たりません。

少年は幼いときに別れた母親に会いにこの見知らぬ土地へ来たのです。
母はみなと屋という旅館に嫁いで、子供もいるということしか分かりません。
祖母のところに届いた手紙の住所を、もうそらで覚えていたつもりでした。

海沿いの道を歩き続けても、どこまで行けば目的の場所に着くのか見当もつきません。

も帽子も無い少年に降り続けるに、体は凍え疲れてきました。

に入らない?」

ふいに誰かの言葉と白いがふわりと差し掛けられたのです。


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このお話を読んだとき、思い浮かんだのが『マッチ売りの少女』でした。

寒く凍える夜、マッチを擦ると、もう亡くなってしまったおばあさんが現れ、少女を抱き天に昇っていくという最後。

幼少の頃は、ただ「かわいそう」という感情だけでした。
でも、大人になってから読み返すと、「あれで良かったんだ」という思いが湧き上がってきました。

海の雪」の少年を向こうの世界へ送り出さなかったのは、きっと帰る場所があったからなんだと思いました。

お母さんが恋しくて、寂しい思いをしてきたことでしょう。
でも、きっと帰りを待っていてくれる誰かがいるはず。
物理的、経済的だけじゃなく、精神的にも安心して帰れる場所。
だから、向こうの世界へ旅立たせなかったんだと思いたいのです。

お母さんを思って、探しに来た見知らぬ土地。

会えるかなと期待に胸を膨らませた思いが、徐々に不安に変わっていったとき、少年の折れそうな心をすくい上げ、癒やしてくれたのが少女の存在だったような気がします。

が降りしきる人気のない淋しい風景を思いましたが、少女と過ごした時間とラストに、少しの救いと暖かい気持ちがこみあげてきました。


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[ 2019/02/24 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

不思議なひらめと正直者の見習いコックのお話『海の館のひらめ』


『海の館のひらめ』

☆あらすじ☆

島田しまおは、アカシヤというレストランで働いている青年。
料理人になりたくて十六歳からこのレストランで働いていますが
もう六年ほどになるというのにいつまでも下働きのままです。
それでもしまおは、人の嫌がる仕事も真面目にしてきました。

しかし、正直者で融通が利かなくて人のご機嫌取りが下手なしまおを
他の料理人は馬鹿にし意地悪な言葉を投げかけるのでした。

もう辞めようと思ったある日のこと、不思議なひらめと出会い、
「あなたを一人前の料理人にしてあげる」と言われるのです。

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真面目にやっているのにうだつが上がらないしまおに
いつの間にか自分を重ね合わせていました。

報われない環境の中でも、ひらめの言葉を信じて行動し、
幸せへと歩いて行くしまおの姿に嬉しくなりました。



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[ 2017/03/05 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

海にギターを預けてきました。『海からの電話』


『海からの電話』


☆あらすじ☆

音楽学校の学生、松原さんはギターを持って海に行きました。
誰ひとりいない海辺の砂浜に買ったばかりのギターを置いて、
ほんの少し、たった五分か十分昼寝をしたのです。
はっと目を覚ますと、もうギターは壊れていました。
ギターの弦、六本すべてが切れていたのです。

「だれだ!こんなことをしたのは」
誰もいないはずの海辺で松原さんは大声で怒鳴りました。
すると、思いがけず近くから、小さな声が聞こえました。
「ごめんなさい」

そして、あとからあとから沢山の声になっていったのです。
「ちょっと触ってみただけなんです」
「壊すつもりなんかひとっつもなかったんです」
「僕たちも音楽をやってみたかったんです」

砂の上をよくよく探してみると、それは沢山の小さなカニたちでした。

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 安房さんの作品には楽器がよく出てきます。

オルガンやトランペット、バイオリンやハーモニカなんかも。
そして、時には歌を歌っていたりもします。

安房さんが楽器をやっていたという記述は記憶にないのですが、
きっと音楽がお好きだったんだろうなと思うのです。

それから、これは何となく感じていたことなのですが、
安房さんの文章はリズム感があるなと思っていました。
人によって感じ方は様々だと思いますが。
うまく伝えられないのですが、声に出して読んでみると
その感覚は顕著に感じられて、読み進むのがなんだか楽しいのです。
「あ、コレコレこの感じ」っていう自分にしか分からない感覚なんですけれど。
そう思うと文章を書く事と音楽の繋がりは深いように思ったりもします。

安房さんご自身は言葉や文章のリズムを大切にして、
それを意識して書いていらしたのかなと思うときもありますが、
それは私の想像の範囲内で、今となっては知る由もありません。

昨日、2月25日は安房さんのご命日でした。
ご健在であったならどんな作品をお書きになっただろうと、
思わないこともありません。
でも、遺してくださった作品があります。
まだまだ知らない作品が沢山あって、それを読む楽しみがあります。

それに今まで読んだ作品も、読み返すと内容を知っているはずなのに
新たな感想や感動が生まれる時があります。
この感覚は文筆に限らず、音楽もそうだなと思ったりします。

新しい作品に触れられなくなったら、
いつか飽きてしまうのだろうかとか、
いつか忘れてしまうのだろうかと思ったこともありました。
でもそんなことは全くなくて、
何度読んだって、何度聴いたって感動が薄れることは無いのです。

作品に出会え、共感して惹かれたことに、ただ感謝しています。





[ 2017/02/26 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

風鈴がうるさいと葉書が届きました。『秋の風鈴』


『秋の風鈴』

☆あらすじ☆

ある日のこと、貧乏な絵かきの「僕」の部屋にこんな葉書が届きました。

「おたくの風鈴がうるさくて夜ねむれません。
 あたし達は、もう長い間寝不足なのです。
 夏のあいだは、がまんしていました。
 でも、もうそろそろとりこんでくださったらいかがでしょう。」


毎日、良い気持ちで聞いている風鈴の音がうるさいだなんて
考えてもみないことでした。
あの音が気になって眠れずにいる人がいるなんて。

絵かきは古いアパートの一階に住んでいました。
差出人の名前が無い葉書を見ながら、
隣近所の人たちを思い浮かべましたが誰なのか分かりません。

この風鈴は大切な思い出の品でした。
夏になる前、過ごした山村で出会った少女がくれたものなのです。
軒下にかけておくとそれだけで仕事に集中することができました。
そして、良い絵がかけるようになった気もしているのです。
それなのに、この葉書だけでしまうわけにはいかないと、
なかば意地になってそのままにしていました。

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それから十日ほどして、大量の葉書の束が届きました。
葉書の重みで郵便箱が床に転がり落ちてしまったほどです。
その全部が風鈴に対する抗議文でした。
葉書の字はどれも似たような筆跡で、
植物の葉を思い出させる草のつるの様なペン字です。

これほどまでに風鈴に迷惑している人がいるなら…、
絵かきは思い出の風鈴を軒下からはずしました。

それからは、何事もなく日々は過ぎていきました。
ただ絵かきだけは、水の底に沈んでいるような虚しさを感じていました。

そして、十月のある秋晴れの朝。
雨戸を開けた絵かきは、何もかもがすっかり分かったのでした。


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風鈴は日本の夏の風物詩。
一軒家の実家にいた頃は風鈴の涼やかな音色が心地よくて好きでした。
それに隣近所から風に乗ってかすかに聞こえてくる風鈴の音も風情がありました。
あの頃は風鈴の音が邪魔になるなんて考えたことなかったと思います。

でも、家を出てアパートで一人暮らしを始めた時です。
お隣さんがベランダに風鈴を下げていたのです。
最初、かすかに聞こえる音を懐かしく楽しんでいたのですが、
一日中少し強めの風が吹き続けていたとき、
こんなにも風鈴の音に悩まされるのかと思った時がありました。

窓を閉めていても隣のベランダの風鈴の音ははっきり聞こえます。
ワンルームなので逃げ場がないところで眠るしかなく、寝不足になりました。
そのうちに、自分でもうるさいと思ったんでしょうか、
お隣の風鈴の音は聞こえなくなっていました。


最近、涼しくなってきました。
もう、夏もおわりですね。




[ 2015/09/01 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

かさ職人の若者と雨の日に出会った少女のお話『青い花』


『青い花』


☆あらすじ☆

裏通りに、小さいかさ屋がありました。

まだ若者でしたが、かさの修理の腕前はりっぱな職人です。

ある日のこと、町へ出る道すがら雨が降っているというのに
傘もささずに垣根にもたれて立っている女の子と出会いました。

傘を持っていないという女の子にかさ屋はとびきりの傘を
作ってあげることにしました。

女の子が選んだ傘の生地は青い色でした。
その夜、かさ屋は夜遅くまでかかって念入りにその青い傘を作り上げました。

それにしても、女の子の選んだ色はなんて素晴らしい色なのでしょう。

そして、自分の腕前もなんて素晴らしいのだろうと思いました。

次の日、女の子に傘を渡して帰ってくると、不思議なことが起こっていました。

店の前にたくさんの女の子がかさ屋を待っていたのです。
そして、そこにいるお客みんなが「青い雨傘を作って下さい」と言うのです。

青い傘.jpg


少女と出会ったのは、それまで丁寧に心を込めて仕事をしてきた
ご褒美だったように思いました。

でも目先の収入にばかり気をとられ、
ただ目の前の仕事をこなすだけの日々になった時、
風向きが変わってしまいます。

忙しさの中で目先のことだけにとらわれていると
自分にとっての嬉しさや大切なことが何だったのか
わからなくなってしまう時があります。

そんな時、「心を置き去りにしてまでも、利益を手にすることが良い事なのかな」と
思える気持ちはなくさないでいたいと思いました。

可愛らしいお話の中にもそんなことを気づかせてくれたような気がしています。

そしてやっぱり安房さんは青がお好きなんだな~と
嬉しくなってしまうお話なのです。

あじさいと傘.jpg



雨の日の楽しみ

6月になって関東も梅雨入りしました。

これからジメジメした季節になるのか~と思うと憂鬱です。
春の爽やかな季節は本当にいつもながらあっという間に過ぎてしまいますね。

やだな~と思っていると余計に雨の日は気分が落ち込むので
今年はちょっと雨の日でも楽しくなるような明るめの色の傘を買いました。

ここで他の人なら花柄とか暖色系の色を選ぶと思うのですが、
私が選んだのは空色の傘。
隅の方にちょっと濃い目のラインで花が描かれている
至ってシンプルな表情の傘です。

シンプルすぎるんだけど、”良い天気の空の色”って感じで
私は気に入っています。

雨の日でも晴れた空に包まれているような気分にさせてくれます。

aozora.jpg



[ 2014/06/14 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

誰も知らないりんごと星のお話『ある雪の夜のはなし』


『ある雪の夜のはなし』


☆あらすじ☆

風のない寒い晩。

人っ子ひとりいない雪の野原の一本道を
たくさんのりんごを乗せたトラックが走ってきました。

トラックがガタンと揺れたひょうしに、
ひとつのりんごが転げ落ちてしまいました。

なんて冷たくて、がらんどうの場所に
自分は落ちてしまったんだろう…。

そうりんごが思った時、
「りんごさん」と呼ぶ声が聞こえたのです。

それはモミの木の真上に光る、
一番はじめに出たひときわ明るくて美しい星でした。


yuki-yo.jpg




りんごとお星さまのやりとりがなんだか素敵なのです。

凍てつく寒い夜、いちめん雪野原に落ちてしまったりんごと星のお話が
私にはなんとなく秘め事のような雰囲気を感じさせる作品で、
味戸ケイコさんの挿絵も幻想的で素敵なのです。

寒い季節にほんのり暖かい気持ちになれる物語だと思います。




[ 2014/02/15 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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