童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
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猟師一家と祝いの青い大皿『鶴の家』


鶴の家

☆あらすじ☆

むかし、猟師の長吉さんがよめさんをもらった秋の晩のことです。
猟師仲間が酒や肉を持ち寄って祝ってくれたあと、よめさんと二人きりになっていろりに向かい合っていると、戸口が細くあいて女の声がしました。

「おめでとさんです」

(今ごろ、誰が…)
長吉さんが戸口に出てみると、真っ白の着物を着て、頭にさざんかの赤い花を飾った女がゆらりと立っていました。

「おめでとさんです。これは心ばかりの祝いで」
と、女は平べったいまん丸いものを長吉さんに渡しました。

あんたさんは、と長吉さんが聞こうとしましたが、もう女の姿は消えていました。

あんな女は見たことがないなと思っていると、急に顔から血の気が引くようなことを思い出したのです。

(もしかして、今のは間違えて殺した丹頂鶴じゃないだろうか…)

禁猟になっている丹頂鶴を誤って打ち落としてしまったのはつい三日ほど前のことです。
打ち落とした者は、罰金をとられます。もしかすると、鉄砲も取り上げられ、牢屋に入れられるかもしれません。
長吉さんは急いでその場に穴を掘りました。
深い深い穴を掘ってそこに鶴を埋めたのです。

今日は長吉さんただ一人。
このことを知っている者は他には誰もいないのです。

「すまんことをしたな」
埋めるときに鶴の翼の上にさざんかを一輪、そっと落としてやりました。


そして、この重苦しい秘密を、長吉さんは来たばかりのよめさんに打ち明けました。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★



turrrrrrr




女が祝いの品として持ってきたのは一枚の青い大皿でした。
模様がなにもない、綺麗で吸い込まれそうに深い色合いの青。

丹頂鶴の呪いでもかかっていそうなこの大皿は、はじめは戸棚の奥深くに仕舞われ、けっして使われませんでした。

何事もなく月日が流れると、よめさんは大皿を使ってみたくなりました。
麦ご飯と塩だけのおむすびや、蒸かし芋だけでも、このお皿に盛られるとどんな食べ物も美味しく思われました。

そして、この青い大皿を使うようになって長吉さんの家には良いことばかりが続くようになるのです。

呪いの品物だと思っていた大皿が一転、幸運の皿となると、長吉さんの後悔や恐れの気持ちが薄れてきたように感じました。

そして、穏やかな日々がすぎ、長吉さんが亡くなった日に大皿に変化が起きるのです。

何度も読み返しても、鶴がこの青い皿に込めた思いは何なのか推し量ることが出来ませんでした。

それでも、ラストの場面を読み返すと、打ち落とされた丹頂鶴の思いも浄化されていくように私には感じられました。


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☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

結婚祝いにお皿?
お祝い事に贈る品物は割れ物は縁起が良くないと聞いたことがあるので不吉な感じがしましたが、それは一昔前の話、今では食器を贈るのは一般的のようです。
相手方が古いしきたりや縁起にこだわらなければ、真新しい食器類を贈るのも新生活をお祝いするのに相応しい贈り物なのでしょう。




[ 2021/01/20 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

せんせい、早く「ひみつ」を取り出して下さい!『鳥』




☆あらすじ☆

夏の夕方、腕が良いと評判ののお医者さんの診療所に
一人の少女がかけこんで来ました。

聞いてはいけなかった「ひみつ」を
日が沈むまでに大急ぎでとって欲しいというのです。

その秘密とは少女が好きになった少年は
実は魔法をかけた赤い海藻の実を食べて人間になったで、
その秘密を誰かが知ってしまったら
日が沈むと少年はに戻ってしまうのです。

少年に実を食べさせた魔法使いは少女に言いました。
「あんたが話を忘れられるか、腕のいいのお医者
ひみつを取ってもらえたら話は別だけどね」と。

だから少女にコトンッと落ちてしまった「ひみつ」を
取り出してもらおうと慌ててやってきたのです

少女の話を聞いての中を覗くと、確かに何か光るものが見えたのです。
それは白い一輪の花のようでもありました。


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少女と少年の悲恋と思いきや、最後に素敵な秘密が少女に用意されていました。
私は安房さんのこういうさりげない優しさが好きです。

私が一番惹かれたのは「のお医者さん」でした。
「秘密を取ってください」なんていう突拍子もない少女の話。
バカにせず、真剣に向き合ってくれたから、
少女のの中の秘密にも気づいてあげられたのだと思います。

そして、少女が去ったあとの思いがけない素敵な真実。
それを少女に知らせるためにお医者さんは外へ飛び出していきます。

「教えてやらなきゃいけない!」
そうさけぶと、お医者さんはそとへとびだしました。
夕暮れの道を、いちもくさんに走りました。
少女の耳の中に、もうひとつの、すてきなひみつをいれてあげるために
一心に、追いかけていきました。


私は、この最後の追いかけていくくだりが一番好きです。
私だったらたった一度きり会った人のために
こんなふうに真剣に向き合えるだろうかと思うと、
医者さんの優しさが溢れているような気がして
いつもこの場面で泣いてしまいます。




[ 2020/04/20 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

あんたたちは、やっぱりわたしの孫なんだよ。『遠い野ばらの村』


遠い野ばらの村


☆あらすじ

たったひとりで小さな村で雑貨屋を営んでいるおばあさん
おばあさんは、店に買いに来る村の人や品物を卸しにくる問屋さんに
よく遠い村にいる息子の話をしました。

そこは綺麗な川が流れていて、たくさんの野ばらが咲いています。
息子の家族は奥さんと三人の子どもたち。
一番上の子は女の子です。

おばあさんは孫娘のためにゆかたの反物を買いました。
ゆかたを縫いながら、自分の若い頃にそっくりな孫娘の姿を
はっきりと目に浮かべるのです。

それは春のはじめの夕暮れ時でした。
そんな娘が本当にやってきたのです。

「おばあちゃん、こんにちは。」

店番をしながら、ゆかたを縫っていたおばあさんが顔をあげると
店の入口に、今まで自分が考えていたとおりの娘が立っていて、
にこにこ笑っていたのです。



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反物を買ってゆかたを縫っていたり、
小豆を煮て、もち米を炊いておはぎを作ったりする場面は
ずいぶん前のことを思い出して懐かしくなりました。

野ばらの石鹸や野ばらの塩漬けがのってる白いおまんじゅうとか、
見たことはないけれど「あったらいいな」と楽しい空想に思いを馳せました。

きっとおばあさんもおんなじだったのかもしれません。
「こうだったらいいな」と思いながら息子や孫たちのことを想像することが、
日々を楽しく前向きに生きていく糧になっていたのだと思うのです。






[ 2019/09/16 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

不思議なてまりが出会わせた身分違いの友だち『てまり』


てまり


☆あらすじ☆

お姫様の遊び相手がはしかになって寝込んでしまいました。

そして、はしかは国中に広まったために、お姫様に感染っては大変だと
お屋敷への子供の出入りが止められてしまいました。
遊び相手が居なくなったお姫様はおもちゃにもお菓子にも飽きてしまい
かんしゃくを起こして泣いていると、突然庭の方から声が聞こえました。

「あんた、どうして泣いてるの」


おせんだと名乗るその少女は、つんつるてんのかすりの着物を着て、
髪は後ろでひとまとめに結んで、藁草履を履いていました。

おせんは色とりどりの木綿糸でかがった大きなまりを持っていました。
その糸は、機織りで使ったはた糸の残りをおばあさんが集めて、
つなぎ合わせて、やっとこしらえてくれたものなのです。

そして、まりの芯には鈴が入っていて転がすたびに、りんりんと
いい音をたてるのです。



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出会う前に不思議な夢を共有していたお姫様とおせん、
二人の出会いは必然だったように思います。

そして、二人が望んでいたのはただ純粋に
一緒にいて楽しい時間を過ごしたかっただけなのでしょう。


ただ、友達でいたいだけ。

どうすることも出来ない境遇に、やるせなさが残るお話でした。







[ 2019/06/02 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

おばあさんの針箱と不思議な縫い針『小さい金の針』




☆あらすじ☆

おばあさん箱は古いバスケットです。
ずっと昔に、お嫁に来るときに持ってきたものです。

バスケットには、小さな赤い刺しとハサミと糸巻き、
ボタンを入れた小箱が入っています。
刺しには大きいと小さいがそれぞれ三本刺さっていて、
おばあさんは針仕事が終わると必ず針の数を数えました。

ある日のこと、針刺しに見たことのない針が一本刺さっていました。
お日さまの光だろうかと思うほどの金色の小さな針です。
針の数が増えるなんて、これまで一度もありませんでした。

ある晩のこと、真っ暗闇の部屋の隅っこがなんだか不思議な感じに明るいことに
気づきました。
それは、針箱のバスケットの小さな割れ目からこぼれている青い光でした。

「まあ、針箱の中に電気がついてる」

急に楽しくなったおばあさんは、そっと蓋を開けてみました。
すると、小さい青いランプが灯っていて、その光に照らされて
とても小さな白いねずみが針仕事をしていたのです。

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お裁縫をしているおばあさんねずみの様子をみていると
母のことを思い出します。

母もよく縫い物をしていて、それを見ているのが好きでした。

布を裁断して、手縫いしたり、ミシンを掛けたりして
形作られていくのを見るのは本当に楽しかったです。

手際よく裁断した布をスイスイ縫っている様子は簡単そうに見えて、
私にも出来るんじゃないかと思っていたのですが、それがさっぱり。

やっぱりセンスなんでしょうか、手先の器用な人って憧れます。






[ 2019/05/11 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

月夜の不思議な拾いもの『つきよに』




☆あらすじ☆

夜に、ねずみの子供が不思議なものを拾いました。

白くて、四角くて、いい匂いがします。

ねずみの子供は触ってみました。
ちょっと舐めてみました。
ちょっとかじってみました。

そして、それを抱えて家に帰りました。

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今日は新なのだそうですが、あえて夜のお話。

とても短いお話です。
ねずみの子供が不思議なものを拾って家に帰ると、
お父さんもお母さんもとても喜びました。
そして、三匹のねずみはとても幸せな気持ちになって、
うっとりと窓のを眺めました。

幸せな気持ちになれる出来事って、
どこに転がっているか分からないものです。

それに気づける感性をもっと大切にして、
気持ちを豊かにしていきたいと思えるお話です。

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[ 2019/05/06 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

気の良い大工さんと不思議なベランダ『だれにも見えないベランダ』


だれにも見えないベランダ


☆あらすじ☆

ある町にとても気の良い若い大工さんがいました。
どんな仕事でも頼まれたら気軽に引き受けます。

立派な腕を持っていましたが、たいへんなお人好しでしたから、
いつも報酬の無い仕事ばかりに追われていました。
そして、いつも貧乏でした。

ある晩のこと、大工さんの部屋に一匹の野良がやってきました。

そして、「ベランダをひとつ、作って欲しいんです」と。

それは、お世話になっているさんに素敵なベランダを作ってあげたいという
特別なお願い事なのです。

翌朝になると、すずめや鳩までもが「ベランダをつくってくれますね」と
言ってくるのです。

そして、大工さんは仕事を引き受けることにしました。

出来上がったベランダを空色のペンキで塗って、がおまじないをかけると
外からは影も形もなく、内側からしか見えないベランダになりました。


それから、何ヶ月か過ぎた頃、大工さんのところに小包が届きました。

中には香りの良い緑の野菜がどっさり入っていたのです。

そして、こんなカードが添えてありました。

”ベランダでとれた野菜です。
ベランダをつくっていただいたお礼です”



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さんから送られてきた緑の野菜
レタスやセロリや芽キャベツ、つまみ菜にパセリにカリフラワー。
ベランダでこれほどの野菜をつくれるなんて驚きです。

さんの手入れが良いのか、それとも魔法のベランダだからなのか。
本当に素敵なベランダで羨ましいです。

私は植物を育てるのが下手で、自分でも驚くくらいあっという間に
なんでも枯らしてしまいます。

鉢植えの花や観葉植物、プランターに植えたプチトマトも
気がつけば全く成長が止まってしまって、そして枯れていきました。

ベランダで出来た野菜でサラダを作るなんて、憧れてしまいます。


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[ 2019/05/04 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

お月さまのいたずら『天窓のある家』


天窓のある家


☆あらすじ☆

何年か前、友人の別荘でのことです。

色々悲しいことが重なり、参ってしまったぼくに
友人がそこへ行くことを勧めてくれたのです。
「誰もいなくて静かだし、山小屋でしばらく静養してきたらいいよ」と。
そして、春の初め三日ほどを、そこでたった一人で過ごしたのでした。

その家には天窓がありました。
ぽっかりと真四角に切り取られた天井の穴にはガラスがはめこまれていて、
昼間は少し眩しいですが、夜には星やが見えました。

庭にはこぶしの木があって小屋の屋根半分に覆いかぶさって枝を広げ、
真っ白ながたくさん咲いていました。

三日目の満の晩のこと。
の光がことさら明るく、天窓の下に敷いた布団の上に、
こぶしの木の影がくっきりと落ちていました。

思わず手を伸ばして枝についたの影に触ってみると、
銀色に光りはじめました。
ぼくはその銀のを一輪摘んでみました。
すると本当にの影がつまめたのです。

朝目を覚ますと、ぼくは昨夜の銀のを握っていました。

そして一枚のの影を自分のものにしたときから、
不思議な声が聞こえてくるようになりました。

”かえして かえして 影をかえして”と。


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思いがけず何かを手に入れてしまったとき、
それがあんまり魅力的で心揺さぶられるものであったなら、
きっと、手放すのが惜しくなってしまうのでしょう。

たった一枚の花影から木の養分をもらったおかげで元気を取り戻した「ぼく」。

そして、それとは対照的な状況になったこぶしの木。

何年も経って、その後のこぶしの木のことを知り
「すまなかったな」と口にした「ぼく」の心情を思うと、
なんだか私は淋しさや諦めのような感情が湧いてきました。

本当の気持ちはどうなんだろうか。
もしかしたら、相手が人間ではなければ、後悔や謝罪の気持ちは
自然といつの間にか薄れていくような気がしたから。

それが、自分を含めての「人間」なのかもしれないと考えさせられた物語でした。

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[ 2019/05/03 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

ひとりぼっちに訪れた素敵な出会い『だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ』


だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ

☆あらすじ☆

働き者だけれど友達がいない一人ぼっちのだんまりうさぎ

毎日一生懸命畑仕事をして、疲れたら寝転がって雲を見て、
日が暮れると家に帰り、黙ってごはんを食べて、
夜になったら星を見ながら眠るのが日課です。

ホコリを被った電話は一度も鳴ったことがありません。

ある朝のこと、大きなカゴを持ったうさぎがやってきました。
カゴの中のくるみ餅を畑の野菜と交換して欲しいというのです。


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だんまりうさぎの思いの葛藤が自分と似てるなと思いました。
友達が欲しくないわけじゃないけれど、
相手とどうコミュニケーションをとったらいいのか分からないのです。

畑で採れたカブでサラダを作りながら、誰かに分けてあげたいなと思ったり、
おいもを落ち葉で焼きながら、誰かと一緒に食べたいなと思ったりする
だんまりうさぎがとてもいじらしく思いました。

そんな時に、突然現れたおしゃべりうさぎ。
勝手に台所でくるみ餅を焼きはじめたり、
たくさんの話も終始おしゃべりうさぎのペース。
それでもだんまりうさぎは楽しくなってきました。

きっと自分が話すより相手の話を聞くのが好きなのです。
相手が楽しそうに話をしているのを見てるだけでもいいのです。

帰り際、電話をかけると言うおしゃべりうさぎに、
だんまりうさぎは、電話は好きじゃないと答えます。
すると、また遊びにくるわと言うおしゃべりうさぎ。

このやり取りが私はとても嬉しかったのです。
初対面の人に電話を断られたら、普通なら拒否されたと思いませんか?
「もう連絡取りたくないってことなのかな」って。

でも、だんまりうさぎはただ電話が苦手なだけなんです。
それを上手く伝えられないだけなんです、きっと。

だから、おしゃべりうさぎが「また遊びに来るわ」って言ってくれた時、
きっと、とてもとても嬉しかったに違いありません。










[ 2017/04/29 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

亀からもらった不思議な時間『だれも知らない時間』


『だれも知らない時間』

☆あらすじ☆

漁師の良太はおばあさんと二人暮らしの元気な若者。
貧乏だけれど毎日忙しくて、網にあいた小さい穴を繕う時間もないほど。
ある日、貧乏暇なしでやりきれないと嘆いていると、大きな亀と出会ったのです。

もう亀は二百年も生きていました。
それでも、あと百年も命が残っているのです。
最近では大きな体を動かすのがおっくうになって眠ってばかり、
見る夢も同じで飽き飽きしていました。

暇が欲しいという良太に亀は自分の時間を分けてあげるというのです。
コップ一杯のお酒と引き換えに。

そして良太は夜中の十二時からの一時間、
誰も知るはずのない秘密の時間を持ったのでした。


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お酒と引き換えに自分だけの時間を手にした若者。
そして、この物語にはもうひとり亀から時間をもらった少女がいました。
それは、もう本当に”賭け”と言うしかないものと引き換えにして。

誰かの時間を貰うってことは、命の時間を貰うことと同じ。
そのためには大きなリスクを伴うことも覚悟しないといけないこと。
時間をもらうなんてありえないことですけれどね。

生きるもの全てに平等にある二十四時間という一日。
全く足らないと思う人もいれば、有り余っていると感じる人もいるでしょう。
私といえば…きっと時間はあるはずなんだと思います。
使い方が下手なのか、効率が悪い動きをしてるのか、
なんだか何もしないで休日が終わってるなんてことがよくあります。
きっと、考えて動けば十分な時間なのかもしれません。

でも、「何をしていても誰にも知られない時間」なんてちょっと惹かれますね。





[ 2017/03/04 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

数奇な宿命で結ばれた娘と鹿のお話『天の鹿』


『天の鹿』

☆あらすじ☆

鹿撃ちの名人清十郎さんはある日不思議な鹿に出会いました。

見事な角をもつりっぱな牡鹿でした。

鉄砲の引き金を引こうとする清十郎さんに牡鹿は言いました。

「ここを通してくれ。そのかわりに宝物をあげるから」と。

清十郎さんには三人の娘がいました。
縁談話がある長女のたえ、次女のあや、そして三女のみゆき。
娘たちに宝物を持って帰ったらどれほど喜ぶだろう。

宝物があるという鹿の市へ清十郎さんは鹿に乗って行きました。

鹿の市からの帰り道、鹿は清十郎さんにこんなことをたずねました。

「昔、鹿のキモを食べたのは三人の娘のうちのどれかね。」

そういえば、昔どの娘かが病気をした時に牡鹿のキモを炙って
食べさせた覚えがあります。
でも、どの娘だったかすっかり忘れてしまっていました。

鹿は悲しみに震えているようでした。
そして、去っていく後ろ姿は寂しげでまぼろしのようでもありました。


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自分のキモを食べた娘と出会えて救われた牡鹿。

娘はこの宿命をどんな思いで受け入れたのだろう。

娘は、鹿と出会うずっと前からその存在を感じていたようだけれど。
思いもよらない相手だったとしても喜んで受け入れられたのだろうか。
それとも、鹿であることも知っていたんだろうか。

牡鹿のキモを食べたために動き出してしまった娘の運命。

牡鹿もまた同じ。

「あんたは、わたしの気持ちがよくわかるんだねえ」

「わたしはずっとまえから、あんたを知ってた気がするもの」

牡鹿と娘がお互いに探して思い焦がれてやっと出会えた、
その想いに救われる気がしました。





[ 2016/12/26 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

森の中で出会った不思議なうさぎのお話『トランプの中の家』


『トランプの中の家』



☆あらすじ☆

「私」と妹あつ子はお母さんからお使いを頼まれて、
おばさんの家に行くために森の中を歩いていました。
そこで姉妹は一枚のトランプを持ったうさぎに出会います。
このうさぎはおやしきの料理番だというのです。
しかも、そのおやしきはうさぎが持っているトランプの中に
描かれている大きな家。

妹をおいてトランプの中に入り込んでしまった「私」の
うさぎの国での不思議なお話です。


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アリスへのオマージュ

うさぎとトランプと森、不思議な国と言えば…。
この物語は『不思議の国のアリス』のオマージュ的要素を含んだ作品のようです。

でも、不思議の国で冒険するというような感じじゃなくて、
こんなふうにうさぎたちが暮らしてる世界があったら
見てみたいなと何気なく思わせるような印象を受けました。
出てくるうさぎたちがコミカルで楽しい物語です。

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姉の誕生日

随分お久しぶりの更新です。
もう、12月。
あっという間に今年もあと十日足らずとなってしまいました。
街はクリスマスムードでいろんなものが華やかになっています。
12月といえばクリスマスですが、私にはもう一つ大切な記念日があります。
それは四歳上の姉の誕生日なのです。

子供の頃から姉は本当に「お姉ちゃんらしい」姉でした。
いつもわがままいっぱいの私の面倒をみてくれていました。
気がつくといつもそばにいて、はぐれないように私の手をギュッと握ってくれていました。
その優しさがその時の私には当たり前のことでした。
きっと、いろんなことを我慢していたのかもしれません。
でもそんな思いをおくびにも出さずいつもそばにいてくれました。

そんな姉はその後保育士になりました。
子供の頃からの夢だったそうです。

今、両親が他界して、姉は私の母親がわりのようです。
姉は家庭があるので離れて暮らしていますが、
今でも事あるごとに気にかけてくれて、
あの頃のように手を握ってくれているような安心感をおぼえます。

この物語の「私」はおばさんに渡すように頼まれたケーキと
妹の手をひいて出かけていきました。
そして、妹といえば「びっくりするほど頑固」なのです(笑)
しっかり者の姉と頑固者の自分とあまりに似ていて笑ってしまいます。
姉の誕生日近くになると思い出す物語です。

そういえば、『となりのトトロ』に出てくるメイちゃんを
姉は私にソックリだと言っていましたっけ。
サツキちゃんを見ていると姉の大変さが分かります(^_^;)








[ 2014/12/21 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

涙を知った魔物のお話『小さいやさしい右手』


小さいやさしい右手


☆あらすじ☆

森の中にある大きなかしわの木に子どもの魔物が住んでいました。

ほんの子どもなので知っている魔法はひとつだけ。

おまじないをして右手をひらくと、
片手に持てるものなら何でも出すことができるのです。


そして、知り合った女の子のために魔法を使うのですが、
あることがきっかけで魔物は女の子に憎しみの気持ちを持つようになってしまいます。

最初は、裏切られたという驚き、それから悲しみに変わり、
だんだんと真っ黒いいじわるな心が湧き上がってきました。


そして、しかえしをしてやろうと思い立ったのです。


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憎しみのたね

”安房さんはどんな思いでこれをかいたんだろうか”

”しかえしって、魔物に何をさせるつもりなんだろう”

そう思うと気持ちが締め付けられそうに苦しくなりました。

憎しみの種はいとも簡単に大きく育ってしまうものだと思います。

相手を信じていれば尚更、裏切られたという思いは
自分では止められないくらい大きくなって、
本当のことさえも見失ってしまうのかもしれません。



「許す」ということの辛さ

魔物は女の子にしかえしをしてやろうと会いにいきます。

もう20年の時が流れていました。

そして、かつての女の子に会ったとき、自分の過ちに気づいてしまいます。

しかえしの相手は女の子ではなかったのです。

自分のために泣いてくれている人の優しさに触れ、
魔物は初めて涙というものを知ります。

今まで泣くことを知らなかった魔物は、
裏切られたと思った時、悲しくても涙をこぼしませんでした。

そして、かつての女の子は、まだ子どものままの魔物に
「憎しみ」を「許し」に変えるようにと語りかけます。

泣くことを知らなかった魔物が
「許す」という言葉を知り涙を流す場面は、
読んでいて涙が止まりませんでした。

魔物の涙には「許す」ことの辛さがあったのかもしれません。

”こんな時、私は許すことができるだろうか”

何度も読み返すたびに自問する場面ですが、
今の私には、まだまだ難しいなと思うところです。

それでも、辛さを乗り越えていく魔物の姿に
救われる思いがしました。



[ 2013/12/08 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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