童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
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テーブルが森の一本の木だったとき『白樺のテーブル』


白樺のテーブル


☆あらすじ☆

ぼくの部屋に、白樺で出来た小さなテーブルがあります。
白くて細い枝を組み合わせて作った可愛らしいテーブルです。

友人がぼくの引越し祝いにと、民芸品の店で見つけて贈ってくれたものです。

「こんなコンクリートの壁に囲まれて暮らすんだから、
せめてテーブルくらい素朴なのを使って、森に行ったつもりになるといいよ。」
そう言って、これを置いていったのでした。

はじめこそ、仕事の合間に一服したり、コーヒーを飲んだりする時に
使っていたのですが、忙しくなるとテーブルを使うのが面倒になり、
いつしか、部屋の隅に追いやられ、物置台になっていきました。

ある日のこと、部屋に妙なお客がやってきました。
ひょろりとした若いで、緑色の服はびしょ濡れでした。

「おたくに木の枝でこしらえた白いかわいいテーブルがないでしょうか」

「ああ、あれのこと?」ぼくはホコリが積もった物置台を指さしました。



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自分が一番大事にしていた木が切り倒されて、テーブルになって、
そのテーブルが重い重いと泣いている夢を見るという不思議な

まだ、テーブルが森の中の一本の木だったときの幸せな思い出を
は知っているのです。
ある日突然、森の木々が切り倒されて、何もない空き地になってしまったことも。


物語に漂う、深い森の中の、静かで淋しい空気感や、森のの哀しさが
味戸ケイコさんの絵ですんなりと引き込まれていきました。







[ 2020/05/08 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

雪に埋もれた小さな家から聞こえてくるのは『すずをならすのはだれ』


すずをならすのはだれ


☆あらすじ☆

寒い寒い2月のこと。

真っ白な森の中を、真っ白なうさぎが通りかかりました。

「よもぎの葉っぱを三十枚、ハコベの葉っぱを十五枚…」

うさぎはこれから森の向こうの町までおつかいに行くところです。

あんまり急いでいたので、ツルッと滑ってしまいました。
滑った拍子に、をかぶった小さな一軒家にドシンとぶつかってしまったのです。

小さな家の扉には磨き上げられた銀色のが付いていて、
”ごようのかたはすずをならしてください”なんて書いてあります。

すっかり嬉しくなったうさぎの紐を引っ張ってみました。

ちり、ちり、ちり…

すると家の中からこんな声が聞こえてきました。

「とびらのすずをならすのは、だれ?」

きれいな、優しい声でした。


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厳しい寒さが続くと、暖かいが待ち遠しいのは人間も動物も植物も
おんなじなんですね。

動物たちがの下に眠っている花や草の種たちを励ます歌を歌ってるなんて、
私も仲間に入れてもらいたくなりました。

もうはとけるよ、陽射しもやわらかくなってきたよって、
凍えそうな種に歌声で元気を届けたくなりました。

日本には四季があって、夏秋冬、どの季節も大切なときです。

でも、私は寒い季節が苦手なので早くが来ないかなって思ってしまいます。

あと十日ほどで分の日です。

眠っていた植物の種が芽を出すのも、もうすぐです。

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[ 2019/03/10 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

黄泉の国へのお使い『白いおうむの森』


白いおうむの森

☆あらすじ☆

みずえは毎日スダア宝石店にやってきました。

お店のゴムの木にとまっている白いおうむに会うためです。

みずえはずいぶん前からこのおうむに言葉を教え込もうとしていました。
それは一度も会ったことのない、おさんの名前でした。
みずえが生まれる少し前に、別の世界に逝ってしまったのです。

知っているのは写真に写った姿だけ。
いつしか、みずえは会ってみたいと思うようになりました。
それがだめなら、手紙を書いてみたいと。
でも、どうすれば手紙を届けることが出来るのでしょう。

スダア宝石店のオウムを見つけたとき、
みずえは胸が痛くなるほどドキッとしました。
鳥は黄泉の国にお使いすると誰かが言っていたのです。
大きくて真っ白で、ものを言うこの鳥なら、
神秘の国を知っているに違いないと思いました。


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もう会うことの叶わない誰かを想う気持ちはきっと届いてる。
そう思わせてくれると同時に、生きているものはそこに行ってはいけない、
そんな怖さを故意に感じさせている物語のように思いました。

会いたくて募る思い。
一緒にいられるのなら、向こうの世界に…なんて。
そんなこと、きっと向こうの世界の人は望んではいないでしょう。

会いたい人、いつの間にか向こうの世界に行ってしまった人のほうが、
多くなってしまいました。

どうか、そちらの世界がこの木漏れ日のように光射す場所でありますように。









[ 2017/03/08 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

真夜中の列車の女の子たち『サリーさんの手』


サリーさんの手

☆あらすじ☆

上京したばかりのれい子は、線路沿いの部屋を借りました。

北向きで日当たりが悪く、電車の振動や騒音も気になりましたが
お金が貯まるまでの我慢だと借りることにしました。

れい子は人形を作っている工場に勤めています。
サリーさんという金髪で青い目をした布の人形です。

サリーさんの手だけを作るのがれい子の仕事です。
手の形に断たれた布をミシンで縫うだけの日々。
いつの間にか人形の手を作っていることすら忘れるようになりました。
こんなふうに大量生産で作られる人形はただの商品でしかないのだと
思うようにもなっていきました。

そんなころ、真夜中にも電車が通ることに気づくのです。
それは午前三時に走ってくるオレンジ色の客車でした。


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1月5日は、安房直子さんのお誕生日でした。
毎年、この日によせて何か記したいと思っていましたが、
何故か実際には何も書けず、ただ安房さんの作品を静かに読み過ごす日でした。

今年も5日は静かに物語を読んで終わったのですが、
急に思い立ったので書く事にしました。

初めて安房さんの本を買ったのが『きつねの窓』という
ポプラ社から出ていた作品集でした。
その10作品の中に『サリーさんの手』が収録されていました。

初めて自分のものとして手にした安房さんの本。
何度も読み返す中でとても印象に残った物語でした。
うまく言葉に出来ないのがもどかしいのですが、
なぜだか気になって『サリーさんの手』ばかりを読み返したりしていました。

のちに、安房さんは人形がお好きだったということを知るのですが、
物語の最後三行に人形に対しての思いが溢れ出しているように感じました。


2017年が始まりました。
昨年中はご訪問いただきありがとうございました。
そして、つたない文章をお読みいただきありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。





[ 2017/01/07 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

さあ行こう!月がしずむまで、僕は自由だよ。『空にうかんだエレベーター』


空にうかんだエレベーター

☆あらすじ☆

大きな町の大通りにできた、子供服のお店。

綺麗に磨き上げられたショーウインドーには
セーターを着た大きなうさぎのぬいぐるみが飾られています。
そのうさぎは毎日ピアノを弾いていました。
そして、なぜかちょっと拗ねているようにも見えるのです。

毎日見に来る女の子「ともちゃん」はうさぎが大好きです。
じっとうさぎを見つめては、ピアノの音に耳を傾けます。
すると、本当にピアノの音が聞こえてくるのです。

ある日のこと、うさぎはこんな歌を歌っていました。

「満月の晩に、またあいましょう♬」


透き通った四角い箱に乗ってお月様に一番近いところまで…。

女の子とうさぎは月の光を浴びて夢のような時間を過ごしました。

でも、それは月が西の空にしずむまで。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのでした。


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ショーウインドーに飾られているうさぎのピアノの音に気づいたのは
きっと、この女の子だけだったのかもしれません。

行き交う人たちは飾られている服ばかりに目がいって
ピアノの素敵なメロディに気づいてくれなかったから
うさぎはちょっと拗ねてしまったのかも。

そんなうさぎのピアノに真剣に耳をすませ褒めてくれた唯一の存在。

気づいて認めてくれたことが嬉しくて
女の子だけに満月の夜の魔法を教えてくれたのでしょう。

存在に気づいてくれて、認められること。

簡単なようでなかなか報われないのですが、
きっと、誰でもがそれを願っているのだと思うのです。

寒い季節に、心がふんわり暖かく感じる物語です。




[ 2016/12/18 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

山の枯れ木たちとひなげしちゃん『しいちゃんと赤い毛糸』


『しいちゃんと赤い毛糸』


☆あらすじ☆

おばあさんは孫娘のしいちゃんのために赤の毛糸で
セーターと手袋と帽子を編んであげました。

セーターは模様編みになっていて、帽子にはボンボン、
手袋にはお花の刺繍がほどこされています。
しいちゃんはまるで自分がひなげしの花になったように嬉しくなって
おもてに飛び出していきました。

北風が吹く雪道を歩いて行くと「くださいな」と言う声が…。
それは、枯れ木の声だったのです。


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母の手編みのセーター

先週、今年初めての積もるほどの雪が降りました。
寒さや雪から解放されるのはまだまだ先になりそうです。
寒いのは本当に苦手です。
でも、私が子供の頃のほうがはるかに多く雪が降っていて
雪合戦をしたり雪だるまを作ったりしていました。

同時に思い出すのが、母が編んでくれたセーターやマフラー。
手編みや編み機でよく作ってくれました。
寒くなり始めると必ず家族の誰かのものを編んでいて、
母の編んでいる姿を見るのが好きでした。

母が作ってくれたものを当たり前のように着て、
気に入らなければ注文をつけたりして、
そんなわがままをいつも母は笑顔で聞いてくれていました。

私には母の器用さは全く受け継がれなかったのですが、
あの細い毛糸が編まれていつの間にかセーターやらマフラーや帽子に
出来上がっていくのが不思議でワクワクしながら見ていました。

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[ 2015/02/11 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

えんとつが無くたって大丈夫!『サンタクロースの星』


サンタクロースの星


☆あらすじ☆

サンタのおじいさん
 ぼくのいえには、えんとつがひとつもないんです。
 それでもクリスマスには、ぼくのところに
 ちゃんときてくれますか?


えんとつが無い家の子供たちも心配しなくて大丈夫。
えんとつがなくたってサンタクロース
ちっとも困らないんですから。


サンタクロースは家の鍵を開けられる秘密の魔法を持っているのです。

しろくまから借りた青い光の流れ

どんな小さな鍵穴にも入って呪文を唱えると簡単に鍵が開いてしまう不思議な

でも、これは子供たちにクリスマスのプレゼントを届けに行く時だけの
特別な秘密の魔法。


クリスマスが終わるとちゃんとをしろくまに返します。


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偶然にもこの時期のタイミングで出会ったのが嬉しくて、
じっくり読んでみたいな~と思ったので、
地元に帰ってから図書館に行って借りてきました。

西東京市中央図書館に行ったとき知った物語です。

絵(新野めぐみさん)はふんわり柔らかな感じがします。

華やかで明るいクリスマスのイメージというよりも、
優しくて暖かくなるような雰囲気の絵とストーリーです。

安房さんがお子さんを持たれてからの作品のようなので、
ご自身のお子さんに思いを巡らせながら書いたのかもしれません。

そう思うと余計に暖かい思いがこみ上げてきました。




[ 2013/12/23 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

懐かしさと切なさを感じさせるお話『さんしょっ子』


『さんしょっ子』



☆あらすじ☆

さんしょっ子はサンショウの木の中に住んでいました。

身なりは粗末な緑の着物と裸足でボサボサの髪の毛ですが、
なかなか可愛い女の子です。


畑の真ん中に生えているサンショウの木の下では、
いつも子どもたちがままごとやお手玉をしたりして遊んでいました。


さんしょっ子もお手玉が好きでした。
お百姓の娘、すずながお手玉をする時にはいつも木の上から見ていました。
そして、ずずなに気づかれないようにお手玉を一つずつくすねては、
秘密の場所に大事に隠しておきました。


月日は流れ、小さかった子どもたちもいつしか成長し大人になりました。

そして、さんしょっ子もすっかり大人になり、変化が訪れます。
でも、そのことにさんしょっ子はまだ気づいていないのです。


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母のお手製お手玉

もう12月も半ば、年の瀬を感じる時期になってきましたね。

今日、探し物をしていた時に懐かしいものを見つけました。

私がまだ小学低学年の頃に母が作ってくれたお手玉です。

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お手玉の中身は私が学校帰りに摘んできたジュズダマの実です。

ジュズダマの実を母に見せるとハギレを持ってきて、
あっという間に2つのお手玉を作ってくれました。

『さんしょっ子』に出てくるお手玉の中身はあずきでした。
そういえば、物語には昔母から聞いた時代背景や遊びが出てきます。

まだ着物の生活、お手玉やままごと、
茶店のお団子は母がよく作ってくれたよもぎの草餅を思い出させます。

自分が知らないはずの時代なのにとても懐かしい思いがしました。

また、成長するにつれて経験する戸惑いや切なさが描かれていて、
自分の子どもの頃の事を思い出しながらも読めた物語でした。

さんしょっ子が風になってしまってからラストまでのくだりは、
安房さんの想いがにじみ出ている優しい終わり方だなと思いました。



母への思い

ここでもう少し、母のことを。

私の子どもの頃の思い出の中に欠かせない人は、
なんといっても母です。

母は手先が器用で、和裁洋裁や編み物が得意でした。

春はワンピース、夏は浴衣、冬はセーターと、
家族のものをよく作ってくれました。

いつも何かしら作っていたという記憶があります。

いつも一緒にいた私は、母が縫い物や編み物をしているのを
見ているのが好きでした。

一枚の布からワンピースやスカートが出来たり、
一本の毛糸からセーターやベストが出来たりするのが
不思議で面白くてずっと見ていても飽きないほどでした。

でも、母の器用さは私には受け継がれなかったみたいです(笑)

姉はしっかり手先の器用さを受け継いだんですけどね…。

それから、『さんしょっ子』の中で茶店のおかみさんが
団子を作る場面があるのですが、
母がよく作ってくれたヨモギの草餅を思い出しました。

母と一緒に土手に生えているヨモギを摘んできては、
それで草餅を作ってくれました。

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今は農薬などが散布されている危険もありますから、
むやみに土手や道端に生えているものを熱処理しているとは言え
口にするのはためらってしまいますが、
私の子供の頃は、他の家でも当たり前にしていた事だったと思います。

”あの頃は良かった”とは一概に言えないですが、
あまりに当たり前にそこに有ったために、
失ってしまってからその大切さに気づいた事が
たくさんあるような気がしています。

私にとってその最たるものは母の存在だったと今更ながら感じています。




[ 2013/12/14 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

目の見えない女の子が心で見た優しい色彩『空色のゆりいす』


『空色のゆりいす』


☆あらすじ☆

腕の良い椅子つくり職人夫婦に女の子が生まれました。

その女の子は生まれつき目が見えなかったのです。

夫婦はいく日も泣き暮らしました。

女の子が生まれる前に、その子のために作った椅子に
色を塗ることも忘れていました。


ある日、空を見上げた椅子つくりは、
”もし、あの子にたったひとつの色をおしえられるなら、
 空の色をおしえたい”と思いました。


その時、本当の空の色を知る不思議な少年と出会ったのです。

北の町に住む椅子つくりの家族と、
心で見える色を知っている不思議な少年のお話です。


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ほんとうの空色は空から

「色は目で見るもの」

自然に当たり前に、今までそう思っていましたが、
この物語を読んでなんとも言えない思いがしました。

目は見えていてもちゃんと本当の色を見ていたか、
そう自問してみると自信をもって頷けないのです。

空色…自分でも空を見るのが好きなくせに、
最初に思い浮かべるのは絵の具やクレヨンの「空色」を
思い浮かべてしまいます。

空の色って考えてみると一つの色じゃないんだなって
この物語を読むと気付かされます。

天気の良い朝は青色、そして赤みがかった青になって、
しだいに赤くなって、暗い紫色になって…。

人工のものでは知ることの出来ない大切なものを
毎日、私たちは受け取っているんだなと改めて思いました。



「本当」に気づけるこころ

この物語では目の見えない女の子が
心の目で色を知っていきます。

空の色には雲が浮かんでいたり、鳥が飛んでいたり。

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赤の色は、あたたかいひざ掛けのような心にしみる赤いばらの色です。

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「心で感じる事」…時々忘れかけているなと思うことです。

なまじ、目が見えると目だけに頼ってそれだけで判断しがちです。

そして、分かった気になって失敗する…

見えていても理解していないってことなんでしょう。

そして、目だけで判断しようとすると、
”都合が悪くなれば目を瞑って見ないようにする”
なんていうずるさも覚えるようになります。

でも、そう思っても心をないがしろにすることなんて
簡単にできないんですよね。

だから、ちゃんと最初から目と心、そして耳も
全身をフル回転させて感じなきゃいけないなと、
そう思えた物語でした。



関連記事:寒い季節に食べたくなる料理



[ 2013/11/30 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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