童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
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木漏れ陽編みのレース『丘の上の小さな家』


丘の上の小さな家


☆あらすじ☆

丘の上に赤いえんとつのついた小さな家がありました。
その家には、お母さんとかわいい少女「かなちゃん」が住んでいました。

かなちゃんはいつも、ベランダの椅子に座ってレースを編んでいました。
細い銀の針で、真っ白い糸をすくい取りながら、
いつか自分が花嫁さんになる日のためのベールを編んでいるのです。

かなちゃんが十三歳になったある日のこと、
ベランダの柱にいる大きなクモに声をかけられました。

「あなたのレースと、ぼくのレースと、どちらが素敵でしょう。」

そこには見事なクモの巣が出来ていました。
クモのレースは美しい銀色で細かく編まれていて、
所々に昨夜の雨のしずくがビーズをはめたみたいに虹色に光っています。

「どうやって編むの?」

憧れでいっぱいの目でかなちゃんが尋ねると、
クモは「レース学院へおいでなさい」と言うのでした。

レース学院に行ったかなちゃんは難しい編み方をびっくりするほどの早さで覚え、
卒業証書と、レースの布と針、ビーズを持って家路につきました。

かなちゃんは「ほんの数時間」のつもりでした。
素敵なクモレース編みを覚えたくてちょっとのぞくだけのつもりでした。

それなのに、家に帰ってみると、帰りを待っていたのは一匹のだけでした。



lllllrrrrssss




物語はじめは、絵に書いたような家と優雅にレース編みをする少女
優しいお母さんの日常が描かれています。
そして、クモに声をかけられてから少女の時間が不思議な世界へと
吸い込まれていきます。
ほんのちょっとだけのつもりで好きなことをして家に戻ってくると、
現実の世界は一変していました。

と、普通ならここで終わりそうなお話なのですが、
の手助けもあり、身につけたレース編みが生計を支えることになります。
それは森の中の木漏れ陽のようにきらめいて、はかなげな不思議なレースです。

レース編みをしているときは、ただ一心に、編むことだけに集中していられます。
悲しい気持ちも、その時だけは忘れられるのです。

かなちゃんが前向きになれたのは、帰りを待っていたのおかげかもしれません。
この、叱咤激励が上手で話し相手のみならず、電話の番や料理までしてくれる有能ななのです。

人生を変えてしまった趣味が、生きる支えになることもあるのかもしれません。
過ぎたことを考えて悲しんでいても仕方がないのです。

前向きになれたり、時々悲しみが押し寄せてきたり。
それでも、心が喜ぶことを見つけて、生きていかなくてはいけないんだなと気づかせてくれるお話です。








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[ 2020/05/07 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

不思議な砂場と海の猫『ふしぎなシャベル』


ふしぎなシャベル


☆あらすじ☆

ベンチで編み物をしていたおばあさんは公園の砂場で
置き忘れられているシャベルを見つけました。

銀色で柄には波の模様がついています。

「まあ、こんな綺麗なシャベルは見たことがないわ。
生きのいいお魚みたいじゃないの。」

シャベルを拾い上げて、砂場の砂をすくってみました。
すくった砂はさらさらととてもいい感じにシャベルからこぼれます。

おばあさんは嬉しくなって、せっせと穴を掘り始めました。
夢中でどんどん深く掘っていくと砂場の砂はだんだんしっとりと濡れてきて、
その濡れた砂には白い貝がらが混じっています。
そして、掘った穴からこぽこぽと水が湧いてきました。

湧き出た水は砂場に溢れ、気がつくとおばあさんは海にいたのです。

公園のベンチもぶらんこも、ポプラの木もありません。
見渡す限りの砂浜と青い海。
おばあさんは波打ち際の砂をせっせと掘っていたのです。



nenenekkkkkk



海でおばあさんは一匹のと出会います。
麦わら帽子をかぶったそのは、なんと魚をとる網を編んでいるのです。

それでおばあさんに「あんたも手伝ってくださいよ」なんて言うのです。

これ、おばあさんが編み物出来ること知っていて言ってるんでしょうね。
それとも、編むのを手伝わせるためにわざとおばあさんを連れてきたのかも。

読んでいて「私には無理だわ」って声に出してしまいました。
ちぐはぐな網目を見て呆れるが想像できます。


潮風が気持ちいい海、そして、とれたての生きのいい魚。

柄に波の模様がついた銀色のシャベルが連れて行ってくれた
不思議な海辺のの町。

おばあさんとのやりとりが面白くて、楽しく読み終えたお話でした。







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[ 2020/05/06 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

まさかの結婚式に招待されました。『猫の結婚式』


猫の結婚式


☆あらすじ☆


ある日、僕の家に出入りしていた野良のギンが結婚すると言って
招待状を持ってきました。

家で飼っている綺麗な白のチイ子とは比べものにならないほど
下品で汚くて傷だらけの野良です。
小さい頃から、たまにチイ子の牛乳をあげたりしていました。

「たった一人の人間として、僕の門出を祝福してやってください」
と言うギンに、僕は「わかったよ。」と答えました。

結婚式の日は、どしゃぶりの雨でした。

僕は最近元気のないチイ子に「ちょっと出かけてくる」と言い外に出ました。

激しい雨の中歩いていると、あとからあとからレインハットをかぶったたちが
追い抜いていきます。

案内されて駐車場の地下へ続く階段を降り、宴会場へ行くと
テーブルにぎっしりとたちが仰々しく座っていました。

案内された席が末席じゃないかと思った時、新郎新婦が入場してきました。



wdwdw




たぶん軽い気持ちで出席した僕に、まさに青天の霹靂とも言うべき事態が発生。

まさか、まさかの結婚式

でも、「僕」にこれまで良くしてもらったこと、とても感謝していると思うのです。
「お父さん」のように思っているから末席にしたのでしょう。

そして、二十日ほど過ぎて届いたハガキ。
それは僕を思っての言葉だと思うのだけれど、
これでまた落ち込んでる姿を想像すると、ちょっと笑ってしまいました。






今日は父の日
cccccc






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[ 2019/06/16 00:00 ] お話「な行」 | TB(-) | CM(0)

気の良い大工さんと不思議なベランダ『だれにも見えないベランダ』


だれにも見えないベランダ


☆あらすじ☆

ある町にとても気の良い若い大工さんがいました。
どんな仕事でも頼まれたら気軽に引き受けます。

立派な腕を持っていましたが、たいへんなお人好しでしたから、
いつも報酬の無い仕事ばかりに追われていました。
そして、いつも貧乏でした。

ある晩のこと、大工さんの部屋に一匹の野良がやってきました。

そして、「ベランダをひとつ、作って欲しいんです」と。

それは、お世話になっているさんに素敵なベランダを作ってあげたいという
特別なお願い事なのです。

翌朝になると、すずめや鳩までもが「ベランダをつくってくれますね」と
言ってくるのです。

そして、大工さんは仕事を引き受けることにしました。

出来上がったベランダを空色のペンキで塗って、がおまじないをかけると
外からは影も形もなく、内側からしか見えないベランダになりました。


それから、何ヶ月か過ぎた頃、大工さんのところに小包が届きました。

中には香りの良い緑の野菜がどっさり入っていたのです。

そして、こんなカードが添えてありました。

”ベランダでとれた野菜です。
ベランダをつくっていただいたお礼です”



reeee




さんから送られてきた緑の野菜
レタスやセロリや芽キャベツ、つまみ菜にパセリにカリフラワー。
ベランダでこれほどの野菜をつくれるなんて驚きです。

さんの手入れが良いのか、それとも魔法のベランダだからなのか。
本当に素敵なベランダで羨ましいです。

私は植物を育てるのが下手で、自分でも驚くくらいあっという間に
なんでも枯らしてしまいます。

鉢植えの花や観葉植物、プランターに植えたプチトマトも
気がつけば全く成長が止まってしまって、そして枯れていきました。

ベランダで出来た野菜でサラダを作るなんて、憧れてしまいます。


paaa






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[ 2019/05/04 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

子猫を捨ててきなさいと、さっきお母さんが言ったのです。『やさしいたんぽぽ』


やさしいたんぽぽ


☆あらすじ☆

誰もいない日が暮れたの野原に、女の子が立っていました。
女の子はエプロンの中に白い子を隠していました。

は静かに眠っています。
さっき、お母さんがこの子を捨ててきなさいと言ったのです。
「眠っているうちに、さあ、早く早く」と。

捨てられた子は、そのあとどうなるでしょう。
真っ暗闇の中、目を覚ました子が鳴いても誰もいなくて…。
考えただけでも恐ろしいことです。

女の子は泣きながらつぶやきました。
「助けて、助けて、誰か助けて…」

すると、女の子の足元がピカッと光ったのです。
まるで黄色い豆電球が灯ったように。
そして、黄色い灯りはあっちにもこっちにも広がっていきました。

それは、特別な夜だけに光るたんぽぽだったのです。


tanpopo.jpg




きっとこのは元々捨て猫だったのでしょう。
たぶん、生まれて間もない小さな命。
それを見つけた女の子は可哀想になって家に連れ帰ったのでしょう。

もし、この子の家で猫か犬、動物を飼っていたなら迎え入れられることも
容易だったかもしれません。
でも、動物を飼っていなければ、いきなり連れてこられても、
飼うことを躊躇してしまうお母さんの気持ちも分かる気がします。
きっとお母さんも女の子を悲しませたいわけでは無かったはず。

優しいたんぽぽたちに出会ったおかげで子猫は安らげる場所へ
旅立つことができました。

ホッとした気持ちと、本当にこんな場所があったら良いのにと、
思わずにはいられなくなった物語でした。


shiro






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[ 2019/04/28 00:00 ] お話「や行」 | TB(-) | CM(0)

貧乏絵かきと不思議な窓のお話『春の窓』


春の窓

☆あらすじ☆

小さな町に売れない絵かきがいました。
部屋のストーブの燃料も買えないほど貧乏なのです。
ある日のこと、寒さを凌ぐために毛布にくるまっていますと
誰かがドアをたたきました。
出てみると、そこには一匹のまだらのが立っていました。

を飼うとお金をかけなくても暖かくなると言うの提案で
絵かきはこのまだらのを飼うことにしました。
寝るときはをだいて、絵を描くときには襟巻きがわりにしたり。

それでもやっぱりのない北向きの部屋は寒いのです。

「南側の壁にを描いてください。」

壁に描いたの絵を魔法で本物にすると言うに戸惑いながらも、
夢や希望が入ってくるようなを思い浮かべ絵かきの心は動きました。

幾日か過ぎ、南の壁に大きなの絵が出来上がりました。
一面広がる春の草原と、その向こうを小さな電車が走っている絵です。
そこに白いカーテンをかけると猫は長い呪文を唱えました。

そして、カーテンを開けるとそこには本物の草原が広がっていたのでした。


sougen.jpg



壁に描いた窓が本当の窓になって描いた通りの景色が広がっている。
こんな窓があったら本当に素敵だなと思いました。
私は窓から外の景色を眺めるのが大好きです。
一番好きな場所はよく利用する図書館。
図書館って外光が入らないような造りのイメージなのですが、
そこは大きな窓があって窓の方に向いて椅子が並べてあるのです。

図書館の二階から見えるのは目の前の駅のホームと家並みと畑、
あとは遠くまで続く空が見えるだけのような景色なので、
天気のいい日はその窓向きの椅子に座って空を眺めているのが
幸せを感じるひとときなのです。

物語の文中にもありますが、本当に窓っていいものです。

そして、絵かきさんのところにきた不思議な猫。
こういうお話を読むと、言葉を話す動物に会ってみたくなったりします。
言葉を話せる人間には上手く気持ちを伝えられないくせに、
言葉が話せる犬や猫になら伝えられそうな気がして。
でも実際には動物が苦手なので…矛盾してますね。

この物語の猫は、ちょっと図々しくて、口が上手くて、しっかりもの、
上から目線のちょっと苦手なタイプだったんですけれど、
うだつの上がらない絵かきさんには丁度いい相棒だったのかも。
私もうじうじして誰かに背中を押してもらわないと動けないので
この位ハッキリしてる相手の方がいいのかもしれません。

それにこの猫、絵かきさんのために「最後の魔法」を使ってくれるのですが、
それがなんだか切なくて、胸がちょっとぎゅっとなるような感じでした。

でも最後はタイトルのような爽やかなラストだったと思います。









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[ 2017/05/06 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)

黒マントを着た黒猫が教えてくれた素敵なこと『ひぐれのお客』


ひぐれのお客

☆あらすじ☆

裏地やボタンを売っている小さなお店のお話。

ある冬の初めの日暮れ時、めずらしいお客様がやってきました。

真っ黒いマントを着た、緑の目をした真っ黒い
のマントは上等のカシミヤです。
寒がりのはマントにつける裏地を探しにやってきたのです。

色の裏地を付けたいと言う
店主の山中さんは裏地を選んであげるのですが…。


暖かい火.jpg



と一口に言ってもきっと思い浮かべる色は人それぞれでしょう。

太陽の、炎のや、真紅のバラのや、郵便ポストの
オレンジがかった赤、青みがかった赤や黒が混ざったような赤。

人工的に作られた赤と、自然の中の赤。

人ひとりひとりに個性があるように、
色にも優しい気持ちにさせてくれる色や、
慰めてくれたり、包み込んでくれたりする色、
寂しくなってしまったり、攻撃的だったりする色があって、
その時の気持ちで良くも悪くも惹かれるのだと思います。

それにしても、安房さんは色の表現がとても豊かです。
文字を目で追っているだけなのに色のついた情景を
思い浮かべることができます。
思いがけない素敵な景色を見せてくれるのです。




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[ 2016/12/11 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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