童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
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猟師一家と祝いの青い大皿『鶴の家』


鶴の家

☆あらすじ☆

むかし、猟師の長吉さんがよめさんをもらった秋の晩のことです。
猟師仲間が酒や肉を持ち寄って祝ってくれたあと、よめさんと二人きりになっていろりに向かい合っていると、戸口が細くあいて女の声がしました。

「おめでとさんです」

(今ごろ、誰が…)
長吉さんが戸口に出てみると、真っ白の着物を着て、頭にさざんかの赤い花を飾った女がゆらりと立っていました。

「おめでとさんです。これは心ばかりの祝いで」
と、女は平べったいまん丸いものを長吉さんに渡しました。

あんたさんは、と長吉さんが聞こうとしましたが、もう女の姿は消えていました。

あんな女は見たことがないなと思っていると、急に顔から血の気が引くようなことを思い出したのです。

(もしかして、今のは間違えて殺した丹頂鶴じゃないだろうか…)

禁猟になっている丹頂鶴を誤って打ち落としてしまったのはつい三日ほど前のことです。
打ち落とした者は、罰金をとられます。もしかすると、鉄砲も取り上げられ、牢屋に入れられるかもしれません。
長吉さんは急いでその場に穴を掘りました。
深い深い穴を掘ってそこに鶴を埋めたのです。

今日は長吉さんただ一人。
このことを知っている者は他には誰もいないのです。

「すまんことをしたな」
埋めるときに鶴の翼の上にさざんかを一輪、そっと落としてやりました。


そして、この重苦しい秘密を、長吉さんは来たばかりのよめさんに打ち明けました。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★



turrrrrrr




女が祝いの品として持ってきたのは一枚の青い大皿でした。
模様がなにもない、綺麗で吸い込まれそうに深い色合いの青。

丹頂鶴の呪いでもかかっていそうなこの大皿は、はじめは戸棚の奥深くに仕舞われ、けっして使われませんでした。

何事もなく月日が流れると、よめさんは大皿を使ってみたくなりました。
麦ご飯と塩だけのおむすびや、蒸かし芋だけでも、このお皿に盛られるとどんな食べ物も美味しく思われました。

そして、この青い大皿を使うようになって長吉さんの家には良いことばかりが続くようになるのです。

呪いの品物だと思っていた大皿が一転、幸運の皿となると、長吉さんの後悔や恐れの気持ちが薄れてきたように感じました。

そして、穏やかな日々がすぎ、長吉さんが亡くなった日に大皿に変化が起きるのです。

何度も読み返しても、鶴がこの青い皿に込めた思いは何なのか推し量ることが出来ませんでした。

それでも、ラストの場面を読み返すと、打ち落とされた丹頂鶴の思いも浄化されていくように私には感じられました。


ruuuuuuuuu



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

結婚祝いにお皿?
お祝い事に贈る品物は割れ物は縁起が良くないと聞いたことがあるので不吉な感じがしましたが、それは一昔前の話、今では食器を贈るのは一般的のようです。
相手方が古いしきたりや縁起にこだわらなければ、真新しい食器類を贈るのも新生活をお祝いするのに相応しい贈り物なのでしょう。




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ひとりぼっちの猟師と子ぎつねのお話『きつねの窓』


きつねの窓


☆あらすじ☆

一人の猟師が、ぼんやりと考え事をしながら歩いていると、
道に迷ったのか今まで見たことのない一面ききょうが咲いている野原に出てしまいました。

あまりの美しさに、少し休んでいこうと腰を下ろしたとき、目の前を白いものが走っていきました。
それは、まだほんの子供の白ぎつねでした。

捕まえようと子ぎつねの後を追うのですが、
ききょうの花畑の中で見失ってしまいました。


その時、後ろで「いらっしゃいまし。」という声が…。

染物屋の店員に化けた子ぎつねに、
ききょうの汁で染めてもらったお指でひし形の窓を作り、その窓を覗くと、
もうけして会うことの出来ない懐かしい人に会えるのです。

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何故、猟師子ぎつねは出会ったんだろう…
何故、子ぎつねは自分の正体がバレてしまう危険をおかしてまで、
猟師の前に現れたんだろう…それが知りたくて、何度も読み返していました。

きっと子ぎつね猟師も孤独だと知っていたのかもしれません。

おんなじ、ひとりぼっち…。

もしかしたら子ぎつねのお母さんを「だーん」と鉄砲でやった相手かも知れません。

きっと子ぎつねはずっと猟師をみてきたのでしょう。、
そして、猟師の中にある淋しい気持ちに気づいたのかもしれません。
だから、ききょうの花から教えてもらった大切な魔法をくれたのだと思うようになりました。

少しでも、猟師の気持ちが癒されて前向きに生きられるように。

憎む気持ちと許す気持ち。

過去にしがみついて生きることと、未来をみて生きること。

そんなことを教えてくれている作品だと思えるようになりました。

ひとりぼっちの猟師と子ぎつねの、
切なくもあたたかい心の交流を描いた作品です。



一人ひとりの心に問いかけてくる物語


「安房直子さん作品」で検索してみると、
必ずといっていいほど、この作品のことに触れています。
きつねの窓』は安房直子さんの代表的な作品です。

この作品は学校教材(教科書)にも取り上げられているようですが
私にとっては解釈が難しい作品なので、受け入れられていることがとても不思議な思いがします。

人それぞれに自由な解釈を委ねられている作品だから教材として良いのでしょうか。


生前の安房さんの言葉に「ささやかな願い」として
とても印象深い言葉があります。

「私の作品は、あまり切りきざまずに、
まるごと読まれてほしいと願っています。」


この言葉が意味するところを私なりに解釈するとすれば、

「国語を学ぶための材料としてよりも、
子供たちの自由な創造の中で幾通りもの展開が生まれる事を願う」

そんなふうにも読み解ける気がしています。


私がこの作品を知ったのは中学生の時でした。

こちらにも書いていますが当時読んでいた少女漫画に、
きつねの窓』について書かれていたのを目にしてからでした。

主人公が子ぎつねや猟師のように、
指でひし形をつくって覗き込む場面がありました。

短い場面でしたが、とても印象に残っていて『きつねの窓』がずっと心の中に引っかかっていました。

それから数年後、偶然に街の本屋さんで再会することになり、
きつねの窓』のみならず、安房さんの作品に惹かれていくことになりました。



関連記事:「文字で表現する色彩」


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プロフィール

青と緑璃

Author:青と緑璃
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」改め「青と緑璃」です。


*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


はじめに



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