童話作家 安房直子さんが遺した景色

安房直子さんの作品を紹介しています。
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不思議なてまりが出会わせた身分違いの友だち『てまり』


『てまり』


☆あらすじ☆

お姫様の遊び相手がはしかになって寝込んでしまいました。

そして、はしかは国中に広まったために、お姫様に感染っては大変だと
お屋敷への子供の出入りが止められてしまいました。
遊び相手が居なくなったお姫様はおもちゃにもお菓子にも飽きてしまい
かんしゃくを起こして泣いていると、突然庭の方から声が聞こえました。

「あんた、どうして泣いてるの」


おせんだと名乗るその少女は、つんつるてんのかすりの着物を着て、
髪は後ろでひとまとめに結んで、藁草履を履いていました。

おせんは色とりどりの木綿糸でかがった大きなまりを持っていました。
その糸は、機織りで使ったはた糸の残りをおばあさんが集めて、
つなぎ合わせて、やっとこしらえてくれたものなのです。

そして、まりの芯には鈴が入っていて転がすたびに、りんりんと
いい音をたてるのです。



tetete




出会う前に不思議な夢を共有していたお姫様とおせん、
二人の出会いは必然だったように思います。

そして、二人が望んでいたのはただ純粋に
一緒にいて楽しい時間を過ごしたかっただけなのでしょう。


ただ、友達でいたいだけ。

どうすることも出来ない境遇に、やるせなさが残るお話でした。







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[ 2019/06/02 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

踊りが上手になりたいお嬢さんへ『うさぎのくれたバレエシューズ』


『うさぎのくれたバレエシューズ』


☆あらすじ☆

その女の子はバレエ教室に通い始めて5年も経つというのに
踊りが上手になりませんでした。

くるくると鮮やかに回れないし、先生の言うとおりに手も動きません。

それでも、音楽が鳴れば踊りたくてたまらなくなるのです。

女の子の願いはたったひとつだけでした。

「どうか、踊りが上手になりますように」


ある朝のこと、不思議な小包が届きました。
それは一足のバレエシューズでした。
そして、一緒に入っていたカードにはこんなことが書かれてありました。

「踊りが上手になりたいお嬢さんへ 山の靴屋」


barerere




好きなのに、それが上達しないもどかしさや辛さ。

自分なりに頑張っているのに思ったように出来なくて、
他の人達がどんどん先に行ってしまう不安で押しつぶされそうになる。

願うだけでは叶わないと分かっていながらも、月や星、遠い山にまで
お願いをしてしまう気持ち。

これまでに何かに夢中になって、それでもうまく行かなかった経験がある人には
この少女の気持ちを自分に重ねてしまうのではないでしょうか。

物語のように、笑顔で終われなかった結果であったとしても、
夢中になれることが見つかって、もっと上を目指して努力する気持ちは
失くしたくないと思いました。

なにかに夢中になっているときって、私はただひたすらに楽しいですから。





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[ 2019/05/19 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

こふきちゃんと母ちゃんとコロッケと『コロッケが五十二』


『コロッケが五十二』


☆あらすじ☆

町の肉屋でもう何十年も使われている大きな大きなおなべがあります。
ぶ厚くて、黒くて重くて、叩くといい音のするおなべです。
毎日、長いかねのお箸と一緒に美味しいおかずをこしらえています。

しかも、このおなべで作ったコロッケはまるで生きているように
歌でも歌いながら今にもコロコロ転がりそうに見えるのです。


この肉屋に小さい女の子がいました。
ふっくりと色白で、まるで粉ふきいもみたいな子なので
みんなは「こふきちゃん」と呼んでいました。

幼い頃からお母さんを真似ては、売り物にならないコロッケを作っていたので、
だんだんと”コロッケぐらい一人作れる”と思うようになりました。

それをお母さんに言ってみましたがお店が忙しいお母さんは
こふきちゃんの相手などしてくれません。
腹を立てたこふきちゃんがまな板の上のコロッケを払い落とすと
おかみさんはとてもこわい顔をして叱りつけました。

びっくりしたこふきちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣き出しました。
床に寝転んで、手足をバタつかせ泣き続けました。

けれど、そんなことをしても誰もかまってはくれませんでした。

korokoro 



ずっと小さい頃から店先で母ちゃんの真似事をしていたこふきちゃんは
いつしか、コロッケなんて自分一人でも出来るような気になってきました。
「母ちゃんのお手伝い、ちゃんと出来るよ」って言いたかったのかもしれません。

なのに、忙しい母ちゃんは話をまともに聞いてくれません。
だから、怒ってコロッケを払い落としてしまったのでしょう。

怖い顔で叱りつけた母ちゃんにビックリして泣いちゃって、
床に寝転んで鼻と涙でぐしょぐしょになっても誰も構ってはくれなくて…。

その情景とこふきちゃんの気持ちが分かりすぎるほどに分かって
笑ってしまいました。

こふきちゃんが騒いでも動じない母ちゃんと、頑固でめげないこふきちゃん。
きっと似た者同士なのかもしれません。


お話の終盤、母ちゃんが文字通り「体を張って」こふきちゃんを助けたあと、
家へ帰る二人の会話がとても良いな~って思いました。

母ちゃんの「なにいってるの」っていう言葉が優しく聞こえるようでした。




今日は母の日♥
kaachan 






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[ 2019/05/12 00:00 ] お話「か行」 | TB(-) | CM(0)

子猫を捨ててきなさいと、さっきお母さんが言ったのです。『やさしいたんぽぽ』


『やさしいたんぽぽ』


☆あらすじ☆

誰もいない日が暮れた春の野原に、女の子が立っていました。
女の子はエプロンの中に白い子猫を隠していました。

子猫は静かに眠っています。
さっき、お母さんがこの子猫を捨ててきなさいと言ったのです。
「眠っているうちに、さあ、早く早く」と。

捨てられた子猫は、そのあとどうなるでしょう。
真っ暗闇の中、目を覚ました子猫が鳴いても誰もいなくて…。
考えただけでも恐ろしいことです。

女の子は泣きながらつぶやきました。
「助けて、助けて、誰か助けて…」

すると、女の子の足元がピカッと光ったのです。
まるで黄色い豆電球が灯ったように。
そして、黄色い灯りはあっちにもこっちにも広がっていきました。

それは、特別な夜だけに光るたんぽぽだったのです。


tanpopo.jpg




きっとこの猫は元々捨て猫だったのでしょう。
たぶん、生まれて間もない小さな命。
それを見つけた女の子は可哀想になって家に連れ帰ったのでしょう。

もし、この子の家で猫か犬、動物を飼っていたなら迎え入れられることも
容易だったかもしれません。
でも、動物を飼っていなければ、いきなり連れてこられても、
飼うことを躊躇してしまうお母さんの気持ちも分かる気がします。
きっとお母さんも女の子を悲しませたいわけでは無かったはず。

優しいたんぽぽたちに出会ったおかげで子猫は安らげる場所へ
旅立つことができました。

ホッとした気持ちと、本当にこんな場所があったら良いのにと、
思わずにはいられなくなった物語でした。


shiro






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[ 2019/04/28 00:00 ] お話「や行」 | TB(-) | CM(0)

不思議な少女と出会った雪降る海沿いの町『海の雪』


『海の雪』

☆あらすじ☆

雪が降りしきる海沿いの町。
少年が一人、バスから降りてきました。

「海岸通り四丁目」
そうつぶやくと、少年はあたりを見回しましたが、道を訪ねようにも
誰一人見当たりません。

少年は幼いときに別れた母親に会いにこの見知らぬ土地へ来たのです。
母はみなと屋という旅館に嫁いで、子供もいるということしか分かりません。
祖母のところに届いた手紙の住所を、もうそらで覚えていたつもりでした。

海沿いの道を歩き続けても、どこまで行けば目的の場所に着くのか
見当もつきません。

傘も帽子も無い少年に降り続ける雪に、体は凍え疲れてきました。

「傘に入らない?」

ふいの誰かの言葉と同時に、白い傘がふわりと差し掛けられたのです。


yy




このお話を読んだとき、思い浮かんだのが『マッチ売りの少女』でした。

寒く凍える夜、マッチを擦ると、もう亡くなってしまったおばあさんが現れ、
少女を抱き天に昇っていくという最後。

幼少の頃は、ただ「かわいそう」という感情だけでした。
でも、大人になってから読み返すと、「あれで良かったんだ」という思いが
湧き上がってきました。

「海の雪」の少年を向こうの世界へ送り出さなかったのは、
きっと帰る場所があったからなんだと思いました。

お母さんが恋しくて、寂しい思いをしてきたことでしょう。
でも、きっと帰りを待っていてくれる誰かがいるはず。
物理的、経済的だけじゃなく、精神的にも安心して帰れる場所。
だから、向こうの世界へ旅立たせなかったんだと思いたいのです。

お母さんを思って、探しに来た見知らぬ土地。

会えるかなと期待に胸を膨らませた思いが、徐々に不安に変わっていったとき、
少年の折れそうな心をすくい上げ、癒やしてくれたのが
少女の存在だったような気がします。

雪が降りしきる人気のない淋しい風景を思いましたが、
少女と過ごした時間とラストに暖かい気持ちになりました。


mm










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[ 2019/02/24 00:00 ] お話「あ行」 | TB(-) | CM(0)

黄泉の国へのお使い『白いおうむの森』


『白いおうむの森』

☆あらすじ☆

みずえは毎日スダア宝石店にやってきました。

お店のゴムの木にとまっている白いおうむに会うためです。

みずえはずいぶん前からこのおうむに言葉を教え込もうとしていました。
それは一度も会ったことのない、お姉さんの名前でした。
みずえが生まれる少し前に、別の世界に逝ってしまったのです。

知っているのは写真に写った姿だけ。
いつしか、みずえは会ってみたいと思うようになりました。
それがだめなら、手紙を書いてみたいと。
でも、どうすれば手紙を届けることが出来るのでしょう。

スダア宝石店のオウムを見つけたとき、
みずえは胸が痛くなるほどドキッとしました。
鳥は黄泉の国にお使いすると誰かが言っていたのです。
大きくて真っ白で、ものを言うこの鳥なら、
神秘の国を知っているに違いないと思いました。


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もう会うことの叶わない誰かを想う気持ちはきっと届いてる。
そう思わせてくれると同時に、生きているものはそこに行ってはいけない、
そんな怖さを故意に感じさせている物語のように思いました。

会いたくて募る思い。
一緒にいられるのなら、向こうの世界に…なんて。
そんなこと、きっと向こうの世界の人は望んではいないでしょう。

会いたい人、いつの間にか向こうの世界に行ってしまった人のほうが、
多くなってしまいました。

どうか、そちらの世界がこの木漏れ日のように光射す場所でありますように。









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[ 2017/03/08 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

さあ行こう!月がしずむまで、僕は自由だよ。『空にうかんだエレベーター』


『空にうかんだエレベーター』

☆あらすじ☆

大きな町の大通りにできた、子供服のお店。

綺麗に磨き上げられたショーウインドーには
セーターを着た大きなうさぎのぬいぐるみが飾られています。
そのうさぎは毎日ピアノを弾いていました。
そして、なぜかちょっと拗ねているようにも見えるのです。

毎日見に来る女の子「ともちゃん」はうさぎが大好きです。
じっとうさぎを見つめては、ピアノの音に耳を傾けます。
すると、本当にピアノの音が聞こえてくるのです。

ある日のこと、うさぎはこんな歌を歌っていました。

「満月の晩に、またあいましょう♬」


透き通った四角い箱に乗ってお月様に一番近いところまで…。

女の子とうさぎは月の光を浴びて夢のような時間を過ごしました。

でも、それは月が西の空にしずむまで。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのでした。


kenban-piano.jpg



ショーウインドーに飾られているうさぎのピアノの音に気づいたのは
きっと、この女の子だけだったのかもしれません。

行き交う人たちは飾られている服ばかりに目がいって
ピアノの素敵なメロディに気づいてくれなかったから
うさぎはちょっと拗ねてしまったのかも。

そんなうさぎのピアノに真剣に耳をすませ褒めてくれた唯一の存在。

気づいて認めてくれたことが嬉しくて
女の子だけに満月の夜の魔法を教えてくれたのでしょう。

存在に気づいてくれて、認められること。

簡単なようでなかなか報われないのですが、
きっと、誰でもがそれを願っているのだと思うのです。

寒い季節に、心がふんわり暖かく感じる物語です。




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[ 2016/12/18 00:00 ] お話「さ行」 | TB(-) | CM(0)

せんせい、早く「ひみつ」を取り出して下さい!『鳥』


『鳥』

☆あらすじ☆

夏の夕方、腕が良いと評判の耳のお医者さんの診療所に
一人の少女がかけこんで来ました。

聞いてはいけなかった「ひみつ」を
日が沈むまでに大急ぎでとって欲しいというのです。

その秘密とは少女が好きになった少年は
実は魔法をかけた赤い海藻の実を食べて人間になった鳥で、
その秘密を誰かが知ってしまったら
日が沈むと少年は鳥に戻ってしまうのです。

少年に実を食べさせた魔法使いは少女に言いました。
「あんたが話を忘れられるか、腕のいい耳のお医者に
ひみつを取ってもらえたら話は別だけどね」と。

だから少女は耳にコトンッと落ちてしまった「ひみつ」を
取り出してもらおうと慌ててやってきたのです

少女の話を聞いて耳の中を覗くと、確かに何か光るものが見えたのです。
それは白い一輪の花のようでもありました。


kamome.jpg



少女と少年の悲恋と思いきや、最後に素敵な秘密が少女に用意されていました。
私は安房さんのこういうさりげない優しさが好きです。

私が一番惹かれたのは「耳のお医者さん」でした。
「秘密を取ってください」なんていう突拍子もない少女の話。
バカにせず、真剣に向き合ってくれたから、
少女の耳の中の秘密にも気づいてあげられたのだと思います。

そして、少女が去ったあとの思いがけない素敵な真実。
それを少女に知らせるためにお医者さんは外へ飛び出していきます。

「教えてやらなきゃいけない!」
そうさけぶと、お医者さんはそとへとびだしました。
夕暮れの道を、いちもくさんに走りました。
少女の耳の中に、もうひとつの、すてきなひみつをいれてあげるために
一心に、追いかけていきました。


私は、この最後の追いかけていくくだりが一番好きです。
私だったらたった一度きり会った人のために
こんなふうに真剣に向き合えるだろうかと思うと、
お医者さんの優しさが溢れているような気がして
いつもこの場面で泣いてしまいます。




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[ 2015/12/10 00:00 ] お話「た行」 | TB(-) | CM(0)

なんでも消してくれる消しゴム『ふしぎな文房具屋』


『ふしぎな文房具屋』

☆あらすじ☆

お客さんが三人でいっぱいになってしまう小さな文房具屋。
ここにはたくさんのかわった品物が置いてありました。

香料ではない本物の花の匂いのするえんぴつだとか、
虹からもらった絵の具、壁の向こう側が見える虫眼鏡、
かいたものが本物のように見えるクレヨンや、
蓋を開けると小鳥の声が聞こえてくる筆箱とか。

だからか、一部の子供や大人の間で有名なお店でした。

ある夕暮れ時のこと、店番のおじいさんがお店を閉めようとしていると
一人の少女がやってきました。
みぞれに濡れて寒そうで、そして悲しそうな様子です。

「なんでも消えるけしゴムください。」
そう言う少女におじいさんが黄色いけしゴムを取り出すと、
「私の心の悲しみも消える?」とたずねたのです。



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なんでも消してくれる消しゴム。

こんなのがあったら、毎日のようになにかしらの嫌な出来事を消して、
あっという間に一個使い切ってしまうような気がする。

そして、早々にまた文房具屋さんに消しゴムを買いに行ったら、
「もう使い切っちゃったの?」って、
おじいさんに呆れられるだろうことが容易に想像できる…。

はぁー、おじいさん嫌なことを跳ね返す、下敷きとか無いでしょうか?

あっ、全然使い方違うか…。




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[ 2015/08/14 00:00 ] お話「は行」 | TB(-) | CM(0)
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Author:すきっぷ
安房直子さん作品に恋した「すきっぷ」です。

*安房直子さんご本人や関係各所とは一切関係ありません。


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